石綿(アスベスト)は、不燃、耐熱性から建築資材など産業用途で幅広く使われてきましたが、発がん性があることから、2006年9月1日着工以後の建物では、使用禁止(正確には重量比で0.1%以下の使用は許容範囲)になりましたので使われていません。しかし2006年までに建築された分譲マンションは485万戸あり、これらの解体、修繕する際はアスベスト対策が求められます。

アスベストの健康被害は、20年以上の潜伏期間があってから発症することが知られており、2020年も肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚で1,088の労災保険の申請があり1,014件が支給決定されています。毎年1,000以上の給付が続いています。世界疾病負荷(GBD:Global Burden of Diseases)」推計によれば、日本のアスベスト(石綿)死は毎年2万人超と推計しておりその多くが肺がんとしています。

アスベスト利用のピークは、1970年代~1990年代で潜伏期間を考えると、今後も被害は続くものと考えられますし、建物の解体・修繕の際のアスベスト対策規制は必要性が強化されます。

大気汚染防止法の2020年6月5日改正を中止に以下の流れで解説します。

マンションで利用されている可能性のあるアスベスト含有建材と危険レベル

大気汚染防止法が2020年6月5日に改正されて2021年4月1日から順次施行されて対策や規制が強化されています。東京都中野区のホームページが2021年4月1日の改正を表にしてよく整理されているので、こちらを引用します。

表1 アスベスト含有建材と危険レベル

危険レベル種別規制対象「特定粉じん排出等作業実施届」の要否
レベル1吹付け石綿特定建築資材必要
レベル2石綿含有断熱材等
 石綿含有断熱材
 石綿含有保温材
 石綿含有耐火被覆材

特定建築資材
必要
レベル3石綿含有仕上塗材(石綿含有下地調整剤を含む)
石綿含有成形版等
特定建築資材不要

レベル1とレベル2はとくに、粉塵排出等作業実施届が必要で、解体・修繕などの作業の際にも注意が必要な作業となります。

レベル別の建材の使用例は、国交省の目で見るアスベスト建材(2002年)がわかりやすいです。例が多く出てきますが、その一部を説明します。

レベル1のうち、鉄骨吹付け石綿などは、マンションではあまり使われていないと思われますが、天井への吹付は古い建物では使用されているかもしれません。

図1 レベル1建材「目で見るアスベスト建材」より(国交省)

レベル2として、マンションの建材に使われているのは、配管保温材です。

図2.レベル2建材「目で見るアスベスト建材」より抜粋(国交省)

レベル3としては、成形版や床材などが含まれており、マンション内でも人間が直接接する場所でつかわれています。

図3. レベル3建材「目で見るアスベスト建材」より抜粋(国交省)

アスベストが使用されていても飛散する形で使用されていなければ問題があるわけではありません。

レベル3を改修する場合は、アスベストは飛散することはないためレベル3「特定粉塵排出等作業実施届」は必要ないというレベルに分類されています。

アスベスト含有建材を含む建物の解体、修繕の工事の際の手順

2014年の6月1日の環境省が出した解体工事等を始める前によれば、建築物の解体工事等の前には、発注者(マンション大規模修繕工事の場合は、マンション管理組合)は、事前に、元請業者(大規模修繕工事会社)に、竣工図等から得られるアスベスト含有情報を提供して、元請業者は、アスベスト使用の事前調査を図面上および現物で実施して、特定粉じん排出等作業の実施がある場合には、都道府県の窓口に発注者(マンション管理組合)の届け出が必要とされていました。

図4.レベル1、レベル2の特定建築建材の解体で、特定粉じん排出等作業届出の手続きの流れ(解体工事等を始める前に抜粋)

表1で言うと、レベル1、レベル2の解体・修繕工事が作業開始前の14日前までに、特定粉じん排出等作業の届け出が必要ですが、クリーンルームのような隔離した負圧になるような作業室が要求されています。大規模修繕工事で実施した特定粉じん排出等作業を実施した例を、聞いたこともありません。もしこれまで実施した例があれば是非教えて頂きたいです。

天井に、石綿含有吹付けバーミキュライトや、石綿含有吹付けパーライトが使われている箇所の天井や壁を壊すような工事がある場合が対象になりますが、建築物石綿含有建材調査マニュアル(2014年11月国交省)の36ページによれば、1980年には乾式、半乾式の石綿吹付けは自主規制で中止、湿式は1990年代まで使用されていたもののロックウール工業会のQ&Aによればエレベータシャフト内などで採用されていたようですが、大規模修繕で触る場所ではないので話題になっていないのかもしれません。アスベストが使用されていても修復時に削って飛散するような修繕をする予定がなければ特定粉じん排出等作業にはあたりません。

通常のマンションの大規模修繕工事で実施される下地補修、タイル補修、シーリング工事、外壁塗装、鉄部塗装、防水工事などでは、対応する工事もないと解釈されてきたか、事前調査を厳格に行わずに届出がされていないのかどちらかだと思われます。

このような実態からか、今後、アスベスト建材が使用された改修工事について、2020年6月の大気汚染防止法が改正され規制が強化されます。

2020年6月の大気汚染防止法改正と、大規模修繕工事の際の手続きについて

図5. アスベスト規制時系列まとめ

環境庁の「大気汚染防止法」が改正されましたという資料によると、2021年4月、2022年4月、2023年10月と施行されて随時規制は強化されていきます。

施行日概要内容マンション大規模修繕工事で考えらえる規制の例
2021年4月規制対象建材の拡大石綿含有仕上塗材と下地調整剤および、石綿含有成形板等、石綿含有けい酸カルシウム板第1種規制対象となる
(作業方法に規制はあるものの、特定粉じん排出等作業実施作業の対象外となった)
石綿仕上塗材、下地調整剤でアスベスト使用の下地補修工事のうち、塗装面ひび割れのUカートシールには、グラインダーなどを使う場合は事前養生する、除去部分を薬剤等でし湿潤化して飛散防止する。
事前調査の信頼性の確保元請けは事前調査をして発注者へ説明竣工図など文書と現地目視確認での調査、目視で判断できない場合は、資料を採取・分析、石綿含有の有無を判断
(レベル1,レベル2の補修が発生する場合は、工事開始14日前までの特定粉じん排出等作業届け出を発注者(マンション管理組合)が実施するについては、変更なし)
事前調査結果の周辺への掲示工事期間中の公衆への掲示A3サイズで掲示
罰則の強化レベル1のアスベスト除去作業で隔離等をしない場合は、直接罰、下請けにも適用大規模修繕工事でレベル1のアスベスト除去作業は多くはないと思われる
事前調査結果の記録の保存工事終了後、事前調査結果を保存する
2022年4月一定規模以上の工事を行う場合は石綿の使用の有無にかかわらず事前調査結果を元請け業者が都道府県に報告建築物の改造・補修、工作物の解体・改造・補修の請負金額が合計100万円以上
の場合は、元請業者が都道府県に報告
すべての大規模修繕工事が合計金額100万円以上は当てはまるため事前調査結果が報告対象になる。2006年9月1日以降の建物も報告は必要になるとのこと
2023年10月「必要な知識を有する者」による事前調査の実施の義務建築物石綿含有建材調査者又は法施行前に日本アスベスト調査診断協会に登録されているものによる実施大規模修繕工事のアスベスト使用調査は、ノウハウがあるしかるべきものへ依頼することが必須になる。

2021年4月から、規制は強化されていますが、実質すべての大規模修繕工事が事前調査結果を都道府県知事に報告する対象となる2022年4月からが変化が大きいと言えるでしょう。

マンション大規模修繕の際に、今後はアスベスト含有の事前調査と、その調査結果に基づく必要な養生や廃材処分の費用、都道府県知事への報告などの業務が、建築確認申請などの費用と同様に、コストに入れておく必要が出てきます。

レベル1、2の除去工事が発生するケースが増えるとコストに大きく影響しますが、石綿含有仕上塗材と下地調整剤および、石綿含有成形板等、石綿含有けい酸カルシウム板第1種などであれば、そんなに大きなコストアップにならないはずです。

2023年10月以降に事前調査が厳密化して、レベル1、2の除去工事が増えると言うことですと、これまで大規模修繕工事の下地補修の工事担当者がアスベストをたくさん吸い込んでいるということになります。クリーンルームのような隔離した負圧になるような作業室を設けて補修をする必要があるとなると、これは大きなコストアップになることが心配されます。

大規模修繕工事以外に心配なのは、共用部、専有部の給水管、排水管の更新工事です。共用部の配管交換工事であれば、普通に100万円を超える工事になります。専有部の排水管に使用されているトミジ管と呼ばれる耐火二層管も対象となるようですが、配管交換作業がアスベスト対策でコストアップする可能性が出てきます。環境省の資料には配管の更新例などがないですが、特定粉じん排出等作業として実施するのはかなり大掛かりな設備が必要となりコストがあがってしまうことが懸念されます。飛散しないような工事方法や配管切断部分だけを吸引するだけの処理など簡易な対策で作業員の安全性を確保する方法がないかを検討する必要があります。

隔離して人が作業するのではなく、吸引しながらロボットが作業するようなことなども考えられないだろうか。現実味がわかないクリーンブースによる作業のイメージが出来ない。

さらに、マンション建替えや除却工事の際には、2006年9月1日以前に着工されたマンションはアスベスト建材を多数使っているため、レベル1、レベル2に相当する特定粉じん排出等作業が発生するマンションでは、規制も強化されていくので、2006年9月1日より前の着工のアスベストが重量比0.1%以上の建材を使っているマンション解体費用はどうなるか心配されます。

なお、環境省の説明に加えて、大規模修繕工事会社の大手の1社である株式会社ヨコソーがYoutubeの限定公開の動画で3回にわたって詳しく解説しています。マンション管理組合員向けの動画で登録が必要ですが、こちらから登録して見ることが出来ます。

まとめ

  • 大規模修繕工事でアスベストが使われた建材の修繕は、2021年4月以降は、規制が強化されます。石綿含有仕上塗材と下地調整剤にアスベストが含まれていた塗装面の下地補修では、養生が求められます。
  • 大規模修繕工事の請負金額が100万円を超える場合は、アスベスト使用の有無にかかわらず、つまり2006年9月1日着工以降の建物でも事前調査結果の報告が都道府県に求められるようになります。
  • さらに2023年10月からは、日本アスベスト調査診断協会に登録されているものによる事前調査を実施とあり、今後アスベスト使用の事前調査が厳格化されます。

以上

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