管理会社の第三者管理方式については、ファミリータイプのマンションにおいても採用事例が増えてきています。

三井不動産レジデンシャルサービス社、長谷工コミュニティ社、合人社による第三者管理方式による理事会廃止型による管理会社による第三者管理方式ついて触れました。

マンション管理会社による第三者管理方式の現状

マンション管理組合目線への問い合わせでも、これまでの第三者管理者方式の記事を読んで、問い合わせが増えてきています。地方都市からの問い合わせでは、理事会には突然、第三者管理者への移行を促すアンケートが来て、そのまま総会で第三者管理者への移行を決議するという強引な提案があったのですがどうなんでしょうか?というものでした。当然、良くない事なので、管理会社なしで理事会を開催するなり他の理事とともにアクションしましょうとアドバイスしました。

もう1件の分譲賃貸の投資向けマンションからの相談では、購入時に既に第三者管理になっている状態でした。総会で発言した内容が議事録から消される問題があったという相談でした。理事会方式にするための規約変更を促す目的で1/5の組合員による総会開催をしようと働きかけの目的で組合員名簿を依頼したが、個人情報保護を理由に管理会社に拒否されたというお話でした。全部屋の登記をとって住所に文面を連絡をしたものの返事が戻ってこない部屋があり3/4の賛成を集めるのは難しいということでした。

標準管理規約の64条では、「 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。」という記述がありますので、組合員名簿を入手して、電話したらどうかとアドバイスしました。

そのマンションの管理規約を見せて頂くと、組合員名簿 開示の文言はありませんでした。第三者管理者方式であるため、組合員の反撃を受けないように管理会社が防御していることがよくわかりました。ご相談の方は、他にもマンションをお持ちで理事長をやっている物件もあり、前向きな組合員の組合活動の参加の権利を奪っていることも問題だと感じました。今後、マンション管理センターや国交省に働きかけましょう、ということになりました。

請負側である管理会社が、発注者側の管理者になるということに私は否定的です。

国交省のマンション政策と管理会社による第三者管理者方式について

管理会社の社員が、管理者(理事長)になるとは、発注者と受注者を管理会社が兼任することになりますので管理組合総会のチェックが甘いと、管理会社の第三者管理者が工事内容や金額を任意に決めて管理会社に発注できてしまうリスクがあり、そのつけが管理組合に管理費・修繕費の高騰という形でつけが戻ってくる可能性を指摘しました。

管理会社の社員が、管理組合の管理者になることは、民法の108条の自己契約による利益相反行為にあたり原則としては、無効とされています。しかしこの民法の原則も「あらかじめ本人が承諾した場合の例外」があるため、管理組合の承諾のもと、管理会社による第三者管理方式の採用がひろがっています。リゾートマンション・1R投資用マンションだけではなく、ファミリータイプでも始まっており、ひとつの流れになりつつあります。

超高齢化社会を迎える中で、築50年、30世帯以下のような小規模マンションの理事長のなり手不足の問題は深刻です。管理会社に委ねるのではなく、建物管理業務や修繕工事業務と利害関係のない外部専門家による第三者管理者方式について考えて見ました。

管理会社へのマンション管理適正化法の縛り

マンション管理適正化法は、2001年に施行された法律です。

マンション管理会社が倒産してしまい、管理組合から預かっていたお金も一般債権として扱われてしまい、戻ってこないという事件があったことが発端になり制定された法律だそうです。

管理組合の意識を高め、管理会社には厳しいルールを強いて、新たにマンション管理士なる新しい資格をつくり、専門家として管理組合を補助するような役割を期待した法律です。

管理会社には管理事務を行う場合は、マンション管理適正化法で以下のようなルールが課されています。

  • 管理委託契約書の締結前の重要事項説明(第72条)
  • 管理事務契約時の書面の交付(管理事務項目とそれぞれの費用内訳、再委託の内容)(第73条)と管理業務主任者による署名
  • 帳簿の作成(第75条)
  • 修繕積立金の分離管理(第76条)
  • 管理業務主任者による管理事務報告(第77条)

などがあります。

さらにこれらを順守させ、管理会社による不正を防止するために、面倒な印鑑・カード等の管理の禁止(同法律 規則87条4項)があるため、自動引き落としになっていない支払い業務があるたびに、理事長や会計が「支払い伺書」に印鑑を押さないといけない仕組みになっています。

マンション管理会社の参入障壁にもなっており、マンション管理業会の進化の妨げになっている面もあります。

管理会社の管理事務の縛り「管理事務」とは、第2条に定義があり「管理事務 マンションの管理に関する事務であって、基幹事務(管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納並びにマンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整をいう)を含むものを言う」とあります。

基幹事務である会計業務と支払い業務(出納)を行う管理会社の支払いに対する縛りなのです。「支払伺い書」に捺印が必要になるのは、簡単にお金を引き出せてしまうキャッシュカードを管理会社が預かるわけにはいかないため、通帳を管理会社が預かって支払いをするため都度、都度理事長の捺印が必要というわけです。

これがなんとも煩わしい作業なのです。

この煩わしい作業を亡くす会計・支払い業務(出納)アプリが、いよいよ出現しました。

会計・支払い業務アプリ「クラセル」

PROPECH JAPAN マンション管理DXというオンラインイベントで2022年1月19日の18時から開催されましたが、三菱地所グループのイノベリオス株式会社という会社の執行役員、営業部長が登壇して、クラセルについて説明してくれました。

この会計業務、支払い業務のわずらわしさを解消することが出来るDXアプリです。

三菱銀行に収納・保管口座を開設することが必要ですが、必要な支払いは、スマフォアプリ、またはPCブラウザ操作から、会計・理事長のダブルチェックすることがで、捺印なしで可能です。

グループの管理会社である三菱地所コミュニティの工数単価では(高すぎて)対応できない中小マンションの市場があるという想定で開発され新会社を立ち上げたそうです。

クラセル概要

初期費 0円

月額使用料 1マンションあたり月額38,500円(税込)(200世帯以上は55,000円(税込み)

組合員利用者数に制限はない

その他、月額費用として、三菱UFJファクターへの使用料、送金費用

機能

  • 発注・支払い・請求画面
  • 部屋管理(入居者管理)
  • 理事会メンバー登録
  • 収支・合計(総会の決算書作成機能)
  • 共用部管理(駐輪場、駐車場の割り当て、請求)

詳細はこちら

イベントで説明がありましたが、クラセルを使用すれば、第三者管理者を採用しても、基幹事務の全てを受託しない形になるためマンション管理適正化法の縛りを受けないという説明でした。

自主管理の分譲マンション向けのアプリとして開発されたようですが、管理会社から使用したいという問い合わせも、多いそうです。

図1 管理会社によるクラセル(DXアプリ)利用の管理形態

会計業務、出納業務の負担、つまり仕分け、入力、支払伺い書、銀行での支払い手続き等の業務の負担軽減をしたくて管理会社が採用したいと考えると納得がいきます。

管理会社の視点では、会計業務、出納業務の負担より38,500円/月(現実には管理会社向けの仕切値があると思われるが)支払う方がリーズナブルと考えているとも言えるわけです。

管理組合の視点では、38,500円/月が妥当な価格かどうかというところですが、規模によります。25世帯で割ると1,500円/戸・月なのですが、25世帯程度だとかなりリーズナブルと言えます。25世帯以下のマンションで、1,500円/戸・月で管理委託を引き受けてくれる管理会社を探すのは大変ですからまずまず良いか価格設定と言えます。

但し、管理会社は、事務管理業務のうち会計・出納以外にも管理会社が手を動かしてくれる業務として、以下の業務が含まれています。

  • 理事会・総会支援業務
  • 災害などの緊急時の業務(管理委託契約書8条)
  • 管理費等滞納者に対する督促(管理委託契約書10条)
  • 有害行為の中止要求(管理委託契約書11条)

これらの業務はクラセルには含まれません。管理会社の事務管理業務費には、これらの費用が含まれていますので、単純比較は出来ません。

管理会社の会計・支払業務 <   38,500円/月  ー 上記の業務  

管理会社の会計・支払業務の費用が、38,500円/月から上記の工数を引いたもの以下であることは考えづらいです。 事務管理業務費 38,500円/月以下の小さいな管理組合に対しては、どこかにひずみを感じながら引き受けているということではないかと想像します。

管理会社が、20-30世帯規模で、1,500~2,000円/戸・月で運営してくれているならば、管理組合運営が良好、滞納状況なし、有害行為なし、総会・理事会も管理組合が自主的に運営しているので管理会社の負担にならないから引き受けていると考えて良いでしょう。

今後、組合活動にトラブルが増えると、管理委託料値上げ要求してくる可能性は否定できませんので、管理会社の業務を増やさないように気を使ってお付き合いしましょう。

そして値上げの要請が来た時にどのように対応するか考えておきましょう。

単に管理費を上げる総会決議が出来れば良いですが、管理項目を見直して支出を削減しておくことが大事です。

会計・支払い業務アプリと専門家による第三者管理者方式で「なり手」不足解消

管理会社による第三者管理方式に代わる健全な第三者管理方式は、建物管理業者や、修繕工事会社との間で関係性がない、マンション管理士などの外部専門家管理者に任命するのが、不正が行われにくい第三者管理者方式です。

マンション標準管理規約(単棟型)の別添1の外部専門家の活用パターンの②外部管理者理事会監督型(リンクのP43参照)にあたります。

図2  外部管理者理事会監督型

理事長、理事のなり手がない管理組合が、第三者管理方式をやむを得ず採用する場合でも、図2のように理事会は廃止せずに、理事会業務を残しておくことをお勧めします。

議決権をもたない外部専門家管理者に、専門業務を依頼して提案してもらい、会計・支払業務はクラセルのようなアプリを使用して、承認行為だけは、管理組合員である会計、理事長のダブルチェックとすれば、単純な不正はおこりません。

理事が外部専門家管理者や、その先に委託先と組んで不正行為を働いて水増し請求される場合は、回避することは出来ません。理事のチェック機能によって外部専門家管理者の提案を判断する機能は残すべきでしょう。

理事長、理事のなり手がない管理組合では、 理事長、理事 の負担を大きく下げるという意味で「外部専門家管理者 理事会監督型」は、一つの解になります

クラセルのような会計・支払い業務アプリがあれば、マンション管理適正化法の縛りもなく大きな組織である必要はなく、50世帯以下のような規模であれば、個人事業主のマンション管理士でも第三者管理者を引き受けることは可能になります。

図3 会計・支払アプリを採用した「第三専門家管理者」活用モデル

24時間の共用部対応のコールセンターや、滞納督促、有害行為・規約違反対応など求める範囲と規模にもよりますが、どこまで必要かと言うことも含めて、新しい解を見つけて行く余地はあるでしょう。

マンション管理組合目線に問い合わせがくるマンション管理組合には、「修繕に関する企画又は実施の調整」は管理会社に委託していないという組合がいくつかあります。そう考えると現実にも無理のないスキームです。

築古小規模マンションで、管理会社の引き受け手がない管理費の値上げは避けたいという管理組合は、図2のモデルも考えて見ましょう

まずは一つ一つの費用に注目して、コスト削減余地がないかを考えていきましょう。

私もイノベリオス社とのクラセルの紹介契約をしていますので、ご興味のある50世帯以下のマンションの方は是非ご連絡くださればと思います。

まとめ

  • 労働人口減少、人件費高騰・社会保障費の負担増などの背景から管理会社の管理委託料値上げとともに、管理会社による第三者管理者方式の提案が始まっています。
  • 三菱地所グループのイノベリオス株式会社によるクラセルは、組合員よる会計・支払の承認機能をもった自主管理アプリです。
  • 会計・支払の承認機能をもったクラセルは、マンション管理適正化法の管理事務を担わないことによる業務負担軽減や、銀行振込業務がなくなるという工数削減の効果を発揮して管理会社による採用も増えているようです。
  • 会計・支払管理業務を担うクラセルの存在は、管理会社以外の第三者専門家による管理者の活躍の機会も増えて行くでしょう。

以上

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