国交省のマンション政策と管理会社による第三者管理方式について

長谷工グループが2021年7月19日 「~分譲マンションの“住まい方改革”を実現~ 理事会を設置せず、区分所有者全員参加型の管理受託サービスsmooth-e(TM)(スムージー)を提供開始」と言うプレスリリースを行いました。

プレスリリースを抜粋すると、以下のようなサービスであることがわかります。

  • 区分所有法上の管理者は長谷工グループで分譲マンション管理事業を行っている(株)長谷工コミュニティが担う管理組合運営のあり方を変革しうるサービス
  • 理事会は非設置
  • 第三管理者方式において多くの区分所有者にマンション管理への関心をお持ちいただくため「マンションの付加価値向上に向けて区分所有者全員がアプリ上で議論し意思決定を行うことができるツール」を採用
  • 最新の修繕計画や管理状況をWEB上で情報公開するとともに、計画的な修繕工事の企画・立案・予算管理を長谷工コミュニティに委ねていただく

第三者管理方式とは、国交省のマンション標準管理規約改正で別添1で解説されている「専門家が直接管理組合の運営に関わる仕組み」です。マンションの高経年化の進行等による管理の困難化や、マンション高層化・大規模化等による管理の高度化・複雑化に対する対応方法の一つとして想定した管理方式です。

このブログでは、国交省の第三者管理方式を解説して、長谷工グループの新サービスが、管理組合と長谷工コミュニティが担う第三者管理者は、利益相反の関係になるため、良い関係になるのは難しいことについて解説します。

マンション管理組合の運営の仕組み

通常のマンション管理組合の運営を図1にまとめます。

図1.マンション管理組合運営の仕組み

分譲マンションを購入した区分所有者は、管理組合員は強制的に管理組合員になります。自治会のように加入しないという選択はありません。その管理組合員から、通常は輪番で決まる理事の中から、理事長が選任されて理事長が管理者として管理会社、保険会社(代理店)、工事会社などのサービス会社とマンションの管理・修繕に必要な検討をして総会で議決して契約します。

管理組合が計画修繕工事や、火災保険などもすべて、管理会社に依存して運営している組合もあれば、大規模修繕工事など、金額の大きい計画修繕工事は、別途、入札で工事会社に依頼している組合もあり様々です。

ファミリータイプの居住者の半分以上が賃借人というマンションは珍しくありません。小マンションでは理事が輪番制でも、数年おきに回ってきて負担が重いとか、理事が一部の人に固定化してしまっている例はよく耳にします。

国交省の第三者管理方式の狙い

国交省がマンション標準管理規約(最新は2021年6月改定)の2016年3月の改定で追加されたマンション管理方式の別添1(添付PDFのP76)は3種類あります。

  • 理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型
  • 外部管理者理事会監督型
  • 外部管理者総会監督型

築古マンションで管理不全に陥るマンションや、タワマン・大規模マンションの管理の高度化・複雑化への対応として管理方式です。

管理組合の仕組みと、国交省の想定した3つの管理方式を説明します。

図2.国交省の第三者管理方式 (1)理事長外部専門家型

理事長を外部専門家として、管理会社の選定や、大規模修繕工事、設備工事などの大きな工事に対する検討を依頼して、理事会でその検討結果を確認して総会で議決して最終決定します。専門的な検討を、外部の専門家に委託することで組合員選出理事の負担は減ります。

考えられるリスクは外部専門家が依頼先の会社と結託して、バックマージンをもらうなどの管理組合と利益が相反する行為に及ぶ可能性があります。理事会の外部専門家をチェックする機能が重要になります。

図3.国交省の第三者管理方式 (2)外部管理者理事会監督型

図2の(1)理事長外部専門家型と同じ運用になると思われます。区分所有法上の管理者とマンション標準管理規約の理事長はほぼ同じ役割ですが、標準管理規約の理事長の方が区分所有法の管理者より細かく縛りがあるため、外部管理者理事会監督型として別の仕組みとして分けたかもしれません。

国交省の解説では、より専門性の高い、大規模マンションなどを想定している事と、滞納管理費等の回収や、反社会的勢力への対応、被災対応なども対応することが可能とあります。

考えられるリスクは外部専門家が工事会社と結託して、バックマージンをもらうなどの管理組合と利益が相反する行為に及ぶ可能性がある点で、理事長外部専門家型と同じです。

図4.国交省の第三者管理方式 (3)外部管理者総会監督型

外部管理者総会監督型は、さらに踏み込んだ外部専門家への委託型で、理事会は廃止されて、監事と管理組合総会だけがチェック機能になっています。

国交省の解説では、理事長のなり手がない例外的なケースとなっています。規模の小さいマンションを想定しているようですが、何故小さいマンションにこの方式が適しているかは、よくわかりません。

外部管理者への依存度が高くなるため、理事がなくなりますので組合の負担はさらに減りますが、外部管理者が自己の利益のために不正行為をする可能性をチェックすることが出来るのか、管理組合にとってリスクが高い管理方式と言えます。

以上まとめると、以下の表のようになります

組合員による理事会運営(1)理事長外部専門家型(2)外部管理者理事会監督型(3)外部管理者総会監督型
組合員選出理事の負担なし
外部専門家への依存度(外部管理者への支払い)なし
外部専門家による不正リスクなし

長谷工グループが発表した第三者管理方式

このような現状を踏まえて、長谷工グループは理事会不要で、第三者管理者方式で、まるごとマンション管理を引き受けますという提案をしています。

プレスリリースによれば理事会を設置せずとありますので、(3)外部管理者総会監督型であることがわかります。組合員の負担は最も少なく、外部専門家の不正リスクがもっとも高い方式です。

区分所有法上の管理者の担い手は、長谷工コミュニティとしています。つまり、マンション管理会社が管理者を出すということになります。 具体的には図5のようになります。

図5.長谷工グループの第三者管理方式

外部専門家の管理者として管理会社へ発注する権限をもつことになります。もちろん区分所有法上の集会(管理組合総会)の決議を実行し、規約で定めた義務を負うことになり、総会での監視機能は働きます。しかし、管理者が長谷工コミュニティ―であれば、何もかも長谷工コミュニティへ管理業務を発注する前提のサービスであることが目に見えています。

民法108条の自己契約、双方代理の禁止について

民法108条 自己契約は無効
民法108条 双方代理は無効

民法 第108条 (自己契約及び双方代理等)

1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

自己契約とは、法律行為(契約など)について、自分自身が、相手方の代理人になることです。これを認めてしまうと、自己の利益のために無制限に、依頼者が不利になる契約を代理人に許すことになってしまうため、売り手と買い手の両方の代理になる双方代理とともに、民法では代理権を有しない者がした行為とみなす(無権代理)として、自己契約双方代理を無効としています。

しかし、本人(依頼者)があらかじめ許諾した行為についてはこの限りではないと中途半端のことも書かれており日本の商習慣上で厳しく問題視されていません。

区分所有法の第26条の管理者の権限は以下となっています。

第26条 (権限)管理者は、共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第47条第6項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。

2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。

管理者は、管理組合(区分所有者)を代理します。そして、管理会社が長谷工コミュニティだとすると、自らに発注するので、自己契約そのものです。本人(管理組合)が許諾しない限りは、民法で無効とされている行為にあたります。

管理組合の理事のなり手不足の解消のための提案として大会社である長谷工グループから、民法で無効とされるサービスが堂々と発表されているのは大問題です。

無制限な自己(管理会社)の利益の追求になりえるリスクをはらんでおり、依頼者(管理組合)が不利になる可能性の高いシステムの提案なのです。

このサービスを受ける管理組合はどうなるか?理事会がなくなり、確かに管理組合員の負担は軽減されますが、管理会社の利益最大のための提案を受け入れ続けるリスクが高くなるため、管理費の高騰、修繕積立金不足もしくは高騰になり、管理不全に陥るリスクが極めて高いです。

管理費、修繕積立金が高くても理事にならないで済むから魅力あると考える区分所有者がいるかもしれませんが、長くは続きません。その理由は、中古売買市場でも、賃貸に出すにしても管理費、修繕積立金が高い物件は、選ばれないマンションになるからです。選ばれないマンションは、管理費、修繕積立金の滞納のリスクが高くなります。

1981年6月以降の建築確認申請の新耐震基準で建てられたマンションは、建物・設備の修繕をきちんと実施すれば100年使用することもできますので、人間の寿命より長く使われる時代になる可能性があります。分譲マンションは区分所有者の資産であると同時に社会インフラでもあります。次の世代に引き継いでいくべきものです。2040年までに約1400万人の人口減少が見込まれる極端な人口減少時代において、管理費、修繕積立金が高い、選ばれない管理不全のマンションにならないことを祈るばかりです。

このサービスがどうなるかを見届けつつ、他のマンション管理会社が追従しないことを望みます。

まとめ

  • 長谷工グループが、第三者管理者方式による分譲マンション向けの新しい管理受託サービスの発表をしました。
  • 国交省はマンション標準管理規約で、専門的知識をもつ外部専門家を理事長や管理者にして、マンション管理組合の負担を軽減する方法(第三者管理方式)を認めています。
  • 長谷工グループの新しい管理受託サービスは、長谷工コミュニティが第三者管理者になることを想定しており、その場合、管理会社が長谷工コミュニティとなると、民法108条で無効とされている自己契約にあたります。
  • このように管理会社が管理組合の代理人である第三者管理者として認められてしまうと、代理人(管理会社)の利益最大となるシステムを許すことになり、管理組合の負担は確かに削減されますが、管理費・修繕積立金に跳ね返って高くなるというリスクがあります。

以上

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