マンションは、共同住宅で区分所有者(各戸オーナー)のみなさんの財産です。限られた時間の中で、ボランティアの範囲で活動されている管理組合が最小限の努力で、大規模修繕工事を成功させるためには、設計書(工事仕様書、設計明細書)がとても重要です。

設計書(工事仕様書、設計明細書)があれば、マンション管理組合が直接、大規模修繕工事の会社に見積もりを依頼出来ます。最低2社、出来れば5-6社に声をかければ、競争の原理が働き、適正価格での提案を得ることが出来て、大規模修繕工事費を20%下げる可能性もあります。

設計明細書に単価を入れたものが見積書です。見積書のチェックポイントについて解説していきます。

その2は、下地補修工事についてです。

下地とは、外壁、床、階段の壁、ベランダの壁、階段やベランダの天井など、タイル面または、塗装仕上げのコンクリート面など、屋上を除く部分の補修をさします。とくに外壁は専有部とも直結するため漏水事故の原因になる可能性がありますのでしっかり修理する必要があります。

マンション計画修繕施工協会(MSK)が公開している 標準見積書建築編令和2年度4月改訂版(以後MSK標準見積書)では、以下の項目で見積もりされています。

1.仮設工事 
1-1.共通仮設
1-2.直接仮設
2.下地補修工事 <=その2では、下地補修について解説します。
2-1.躯体補修工事
2-2.タイル補修工事
2-3.洗浄工事
3.塗装工事
3-1.壁面関係塗装工事
3-2.鉄部関係塗装工事
4.防水工事
4-1.屋上防水工事
4-2.ベランダ防水工事
4-3.廊下防水工事
5.シーリング工事
6.諸経費

設計書(工事仕様書、設計明細書)はどんなものかの概要については、マンション大規模修繕工事、設計書作成とチェックポイント、その2を参考にしてください。

マンション大規模修繕工事、設計書作成とチェックポイント、その2

大規模修繕工事における下地補修とその割合について

図1.  国交省2018年5月公開のマンション大規模修繕工事に関する実態調査の工事金額内訳、下地補修について

国交省が2018年5月に公開したマンションの大規模修繕工事に関する実態調査によると、平均で外壁塗装の塗装を除いた部分と外壁タイルの和が、下地補修の割合になります。図1の左の円グラフでは外壁塗装が17.3%、外壁タイル6.7%が相当するため、外壁の塗装を除く必要がありますので、下地補修は24%以下と言えます。

大規模修繕工事における下地補修は、以下の流れで進められます。

足場
(足場に上って外壁の修繕カ所を確認するため足場ができてから)
目視と打診によるクラック(ひび)とタイル・コンクリートの浮きの確認
足場に上り全面点検します。修正箇所をマスキングテープやマジックでしるしをつけて修理箇所の実数を数えます。
下地補修
コンクリート部、タイル部それぞれを修理します。
洗浄
高圧洗浄、薬品洗浄で洗い落として、コンクリート部は塗装の準備に入ります。タイル部は終わりです。
コンクリート部塗装
修理部も含めて、コンクリート部は全体をもとの状態に近い色で全面塗装します

MSKの標準見積書建築編令和2年度4月改訂版では、2-1)躯体補修工事(コンクリート部)、2-2)下地補修(タイル部)、3)洗浄で3つに分けていますので、その順番で実際の見積もりと工事内容を解説します。

下地補修の特徴としては、実数清算があります。

見積もり時は足場がないため、正確な見積もりをすることは出来ないため面積に対して、修理箇所の比率から、修理箇所の仮の数字を入れておきます。足場を組んでから、下地補修調査で全面を確認して修理箇所を出すことで実数と見積もり時の数の差異を出して、精算額について施主(管理組合)と大規模修繕工事会社との間で合意をして、実際の工事を行います。支払い時に差分を清算します。

これを実数清算と言います。実数清算は見積もり作成段階より増える場合もあれば減る場合もあります。大規模修繕工事を予算化する直前のマンション管理組合総会では、発注金額に対する決議と、下地補修の実数清算分を3-5%くらいを予備費とその予備費の決済を理事会に一任することを併せて決議しておく必要があります。

以下、下地補修の見積書の明細を見ていきます。
数字は実際の現場の複数のお見積もり例と、積算資料ポケット版マンション修繕編(一般社団法人 経済調査会)を参考にしています。

躯体補修工事(下地補修工事コンクリート面)の見積

マンション計画修繕施工協会(MSK)が公開している明細書では、ひび割れ補修(外壁面、幅0.5㎜以上と幅0.5㎜以下)、同(ベランダ)、同(廊下)、鉄筋露出箇所補修(外壁面)、同(ベランダ)、同(廊下)、コンクリート欠損部補修、手すり付根欠損箇所補修の項目があります。

表1の例では、手すり付根欠損箇所補修は除いています。ベランダ、廊下、外壁面で項目はわけておらず、修繕状況での項目としています。ベランダ、廊下、外壁面で表面の仕上げが異なり、単価が異なる場合は分ける意味がありますが、単価が同じであれば分ける必要はありません。

表1.躯体補修工事(下地補修工事コンクリート面)

項目仕様数量単位単価金額備考
1下地補修調査(コンクリート面、タイル面含む)打診テスト、目視1200,000200,000
2ひび割れ補修(コンクリート面)0.5mm以上Uカットシール5m1,3006,500※1
3ひび割れ補修(コンクリート面)0.5mm以下セメントフィラー刷り込み50m30015,000※1
4モルタル浮き部補修エポキシ注入12穴/㎡ SUSピンニング100250250,000※1
5塗装面欠損部補修斫り・樹脂モルタル成形50箇所1,10055,000※1
6脆弱塗膜補修(コンクリート欠損部補修)剥離・段差補修・肌合わせ15m21,50022,500※1
鉄筋露出部補修(コンクリート欠損部補修)斫り・防錆・樹脂モルタル成形50箇所1,50075,000※1
小計624,000
※1)が実数清算の見積もり項目となります。

価格は参考程度に見てください。

積算資料ポケット版マンション修繕編(一般社団法人 経済調査会)2019/2020では、表1の単価と比べて1.Uカットシール工法は2倍近くかなり高く、2.セメントフィラー刷り込み、4.モルタル浮き部補修、5は項目がなく、6、7のコンクリート欠損部補修は少し高いです。修繕前の状態によりますが、下地補修箇所の総額をチェックして、金額が大きくなければ単価一つ一つを細かく見る意味はないかもしれません。なお大規模修繕工事会社によって単価のばらつきがかなり大きく出る項目です。

MSK標準見積書で抜けている項目として下地補修調査があります。足場が完成したら、外壁、天井、ベランダ壁、廊下などすべて打診と目視でクラックゲージなどでひびの幅を調査をして、補修箇所にコンクリート面はペンで、タイル面はテープでしるしをつけます。

ひび割れに関しては、 0.3㎜(設計によっては0.5㎜) 以下と、0.3㎜(設計によっては0.5㎜)以上に分類して、それぞれUカットシール工法、セメントフィラー刷り込みで処理されます。
コンクリート浮きに関しては、SUSピンニング工法によるエポキシ樹脂注入により処理します。

コンクリート破損については、塗装面欠損、脆弱塗膜補修(コンクリート欠損部補修)、鉄筋露出部補修にわけています。

下地補修調査で大規模修繕工事会社が修理箇所をマーキングして数えて、この段階で実数に書き換えて、大規模修繕工事会社は、施主である管理組合に実数の確認を求めます。このとき、必ず管理組合も現場立会を行い、全種類の修理内容を確認して、それぞれの症状をどのように修理するのかを確認しておくべきです。実数清算は水増しがしやすい項目です。しっかり管理組合はしっかりチェックする姿勢を持つべきです。

図2.下地補修調査、打診によるモルタル面の浮きの確認

図3.ひび割れ補修(塗装面)0.5mm以上のUカットシール工法による補修

図4.ひび割れ補修(塗装面)0.5mm以下のセメントフィラー刷り込みによる補修

 

図5.モルタル浮き部補修

実際には、ドリルで穴をあけてピンを指して、その穴にエポキシ樹脂を注入します。作業の様子は、補修の樹脂メーカーのコニシ社の解説動画がわかりやすいでので、リンクのボンド CPアンカーピン工法をご覧ください。

図6.脆弱塗膜塗装(コンクリート欠損部補修)

図7.鉄筋露出部補修(コンクリート欠損部補修)

躯体補修工事(下地補修工事タイル面)の見積

マンション計画修繕施工協会(MSK)が公開している明細書では、タイル張替と、タイル浮き補修があげられています。抜けている項目としては、下地補修調査のコンクリート面と合わせて、打診および、目視で確認する項目、タイルとタイルの間のモルタルの目地埋め作業費が抜けています。さらに特注タイルの場合は、焼く費用が抜けています。とくに外壁タイルは焼いたものを使っているケースが多いようです。タイル加工費は後で説明します。

表2では、外壁と床でタイルの材質が異なり、外壁は特注タイル、床タイルは既製品のタイルを使う場合の例としています。

表2.躯体補修工事(下地補修工事タイル面)

項目仕様数量単位単価金額備考
1外壁タイル張替斫り・タイル貼り20005001,000,000※1
2外壁タイル浮き部補修エポキシ注入24穴/㎡ SUSピンニング400250100,000※1
3外壁タイル製作(特注タイル)1窯(5x10cm程度で1万枚)400,000
4外壁タイル目地痩せ・欠損部補修目地埋め2人日30,00060,000
5床タイルひび割れ補修タイル張替、既製品タイル代含む500750375,000※1
6床タイル浮き部補修 0.25m2未満susピンニング
エポキシ樹脂(部分)注入  24穴/㎡
150箇所25037,500※1
7床タイル目地欠損部補修目地埋め2人日300,000600,000※1
8床スリップ止めタイル交換タイル張替、既製品タイル代含む150800120,000※1
9タイル加工代150,000
小計2,742,500
※1)が実数清算の見積もり項目となります。

価格は参考程度に見てください。外壁タイルは通常特注で発注します。外壁タイルは必要数だけ購入することは出来ず1窯単位が最小発注単位で焼くことになります。納期がかかるので、3か月前には発注しておく必要があります。総会で大規模修繕工事の予算を決議する場合は、スケジュールを意識して段取りが必要です。
もし2回目以降の大規模修繕工事であれば、前回の大規模修繕工事で作ったタイルがマンション内に残っていれば製作する必要はありません。在庫数は箱単位でざっくり数えておきましょう。なお、見積もりは全タイル面積の0.5%から1%くらいで見積もります。新規で焼く場合は1窯単位ですので問題ないですが、在庫を使う場合は必要なタイル数は、見積もりの倍くらいは用意しておいた方が良いでしょう。※ 2007年竣工マンションで接着剤でタイルを直貼りするマンションの1回目の大規模修繕で、タイルを10%張り替えたという例があると報告を頂きました。このブログはモルタルで貼る工法ですので接着剤直貼りでは想定を増やしたほうが良いようです。

在庫タイルを使う場合、基本形のタイル以外にも、角部分のいろいろな形をしたものが必要になる場合がありますが、基本のタイルを切ったり、貼り合わせたりしることで、様々な形のタイルにすることで対応できます。その場合は、タイル加工費を取られるかもしれません。大規模修繕工事会社に相談してみましょう。新規で焼く以外に選択がないようなことを言う大規模修繕工事会社は、経験が十分でない可能性があります。

タイル張替コストは大きな金額になります。外壁の面積分になりますので枚数も多くなり単価が重要なチェックポイントになります。表2では500円となってしていますが、積算資料ポケット版マンション修繕編(一般社団法人 経済調査会)2019/2020によれば、タイル張替は700円台、タイル焼き費用は、50m2で59万円と記載があり、どちらも少し高めのようです。

床タイルやスリップ止めタイルについては、類似品を既製品(カタログ品)として入手することが出来る場合が多いです。既製品の費用もインターネット検索で原価を調べることができますのでチェックしてみましょう。張替コストは外壁とほぼ同じとみるとタイル張替、既製品タイル代含むの価格の妥当性がわかります。

大規模修繕工事の総額が上がり、修繕積立金を考えたときにコストを下げたい場合は、床タイルとくに1階の共用部や階段のタイルに小さなクラック(ひび)がはいった程度で交換するかどうかは難しいところです。
外壁タイルは、建物の防水性能と直結しており、専有部の雨漏りの原因になることもありますが、床タイルは多くの場合は、躯体への影響はもちろんあるのですが、下の階も階段であり漏水しても、階段からの漏水で、万一の場合の影響は外壁タイルと比べると小さいです。床タイルについてはさらに、影響は小さいため、どこまでコストをかけて修繕するか修繕積立金を見て検討すべきです。

図8.下地補修調査、打診によるタイル面の浮きの確認

図9.タイル張替

図10.スリップ止め(類似の既製品)タイル張替

洗浄工程の見積

マンション計画修繕施工協会(MSK)が公開している明細書では、高圧水洗浄と薬品洗浄の項目のみとなります。コンクリート面は高圧洗浄、外壁及ぶ床のタイル面は薬品洗浄が使われます。

表3.洗浄工程

項目仕様数量単位単価金額備考
1コンクリート面洗浄高圧水洗浄490m210049,000※1
2外壁タイル面仕上げ洗浄薬品洗浄1,200m2450540,000※1
3床タイル面仕上げ洗浄薬品洗浄220m245099,000
小計688,000
※1)が実数清算の見積もり項目となります。

価格は参考程度に見てください。コンクリート面は、高圧水洗浄後に塗装します。タイル面は、薬品洗浄で仕上げになります。

見積もりのチェックポイントとしては、見積もり時というよりは設計時の確認になりますが、コンクリート面の面積、外壁タイル面、床タイル面の面積の確認をすると良いでしょう。設計者が管理会社の場合、外部設計コンサルタントの場合にしてもバックマージンを狙っている場合の隠れ蓑として面積の水増しは最適です。竣工図を見て、外壁タイル面は、縦横高さでざっくり面積を出すことが出来ます。また足場面積より一回り小さくなりますので、足場と面積との比較も有効です。床タイル面は計算しやすい廊下だけ、計算して全体が大きくずれていないか確認すれば良いでしょう。コンクリート面の高圧洗浄は単価が安いので細かく見る必要はないでしょう。

積算資料ポケット版マンション修繕編(一般社団法人 経済調査会)2019/2020では、高圧洗浄は表3の2倍、タイル薬品洗浄も2倍までは行かないですがかなり高いです。下地補修については、同書は実勢価格より全体的に高めのように見えます。

まとめ

  • 国交省が2017年度に実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では大規模修繕工事に占める割合は平均で、外壁塗装17.3%の塗装を除く工事と、外壁タイル6.7%が下地補修にあたります。下地補修は、屋上を除く、タイル面、塗装仕上げのコンクリート面の補修です。
  • コンクリート面では、クラック(ひび)、浮き、剥がれ(脆弱塗膜や鉄筋部露出)とでタイル面は、浮きとクラック(ひび)でそれぞれで異なる修繕をします。
  • 下地補修の例として、表1、2、3で躯体補修工事(下地補修工事コンクリート面)624,000円、躯体補修工事(下地補修工事タイル面)2,742,500円、洗浄工程688,000円で、合計で4,054,500円となる見積もり例を説明しました。大規模修繕するマンションの外壁タイルの状態によって大きく金額は変動します。
  • 下地補修は、足場がかけられたら、全体を目視および、打診で診断して修繕箇所を数えます。この数は、実数清算と呼び、見積もり時と修繕内容別に数量が増減しますので、施主である管理組合と大規模修繕工事会社で現場確認をして増減数、金額合意をしたうえで工事に入ります。マンション管理組合の総会で、大規模修繕工事の予算を決議するときは発注金額の決議に加えて、3-5%程度を予備費も確保して、その範囲において管理組合理事会で一任で大規模修繕工事で使用できるようにする必要があります。
  • 外壁タイルは特注タイルが使用する場合が多く、在庫がない場合は焼く必要があり納期がかかるので、早めに総会決議をして大規模修繕工事の発注をする必要があります。

以上

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