2021年6月の国交省の標準管理規約の改正で、21条 敷地及び共用部分等の管理のコメントが追記されました。原則は、専有部配管の取替え費用は、各区分所有者が実費に応じて負担としつつ、専有部配管の更新について修繕積立金から拠出することについての注意点が追記されました。
また、2021年9月の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」改正では、2011年4月のから10年ぶりに更新して「修繕積立金の額の目安」を大幅に引きあげました。
これらの改正の背景には、修繕積立金を上げて専有部配管も修繕を実施して、築古マンションの長寿命化させたいという国交省の意図があるかもしれません。
最近のマンションは、共用部の竪配管は、ステンレス・樹脂配管、専有部は架橋ポリエチレンなど、樹脂系が使用されており漏水問題は、50年問題ないという意見もあるほどです。しかし、築古マンションは給水に給水用塩ビライニング鋼管、給湯に銅管、排水に鋼管または、塩ビライニング鋼管が使用されていた時代があり、築30年前後から漏水事故が起こります。
専有部の漏水被害は下階に及びまた調査費用も負担が大きく、火災保険の料率があがる要因にもなっており、築古マンションの100年まで見据えた長寿命化には、専有部配管を一斉更新が有効です。
さらに区分所有法には以下の条項があり、漏水箇所が不明な場合は共用部分の問題として管理組合が調査をしなければならないのです。
第9条(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定) 建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。
以下の流れで専有部配管の一斉更新について説明します。
国交省で行われているマンション管理の新制度の施行に関する検討会で、標準管理規約が見直し第21条のコメントの意味を深堀してみます。
目次
まずは自宅の配管の材質を調べよう
築20年以上経過したマンションは、竣工図のうち専有部の配管の図面を確認することで、将来の漏水箇所を予想することが出来ます。
まずは専有部の設備の図面をみて、雑排水管、汚水管(トイレ)、給水管、給湯管をそれぞれ、給水栓(蛇口)から塗分けして材質を確認します。
表1 専有部配管材質別種類と漏水リスク
漏水リスク高い材質 | 漏水リスク低い材質 | |
給水配管 | 給水用塩ビライニング鋼管(SGP-Vなど) | 架橋ポリエチレン(XPEP) |
給湯配管 | 銅管(Cu) | 架橋ポリエチレン(XPEP) |
排水配管 | 鋼管(SGP)、白ガス管(SGP白)、排水用塩ビライニング鋼管(DVLP) | 耐火二層管、トミジ管(TVP, 外側は石綿セメント・内側は塩ビ) |
設備図面は、材質の記述がないものや、ルートが間違っているものもあります。確実に調査するためにはマイクロスコープによる調査、さらには、抜管によって劣化状態や配管の肉厚を調査が必要になります。
マイクロスコープによる調査は1専有部であれば10-20万円、抜管は、内装復旧まで含めると3-50万円程度の費用が掛かります。調査ですらも専有部の負担で各自実施してくださいと言うには無理がある費用負担になります。標準管理規約では専有部の配管は専有部の区分所有者の負担が原則となっています。
調査の結果、鋼管・銅管が使用されているなら、30年目前後で漏水が発生すると考えるべきです。
給水管は、エポキシ樹脂によるライニング更生工事や、電気防食、セラミック活水器などの処理を行っている場合は、30年経過しても無事故の例もあります。給湯管に比べると事故は少ないですが、エルボ、チーズ(T型の分岐)によるネジの継ぎ手が錆びて漏水します。
給湯銅管については、エルボ部分や、継ぎ手のはんだ付け部分からピンホールといって小さな穴が開いて漏水します。銅は錆びないのですが肉厚が薄いため、エルボ部分等の流速の違いや、気泡などの影響からいずれは漏水します。施工状態によって30年以内で漏水多発のマンションもあれば、築40年無事故の例もあります。
雑排水管は鋼管が使われている場合は、漏水リスクが高いので早めに更生工事または、更新する必要があります。
汚水(トイレ)については、流れるものが専用であるため一般的に寿命は長いと言われています。マンション専用部分等の配管類更新による再生事例調査報告書によれば、汚水配管も更新した例が7件あるため、抜管して配管の肉厚や継ぎ手の状況を確認すべきかもしれません。
ライニング更生か更新か
給水・給湯・排水配管、いずれも漏水が発生した後でも、ライニングによる更生工事と、更新工事の選択があります。
一般的にはライニング更生工事は各社10年間保証がつきます。耐用年数は20年間と言われています。
費用は、東京トルネード社のホームページによると以下となっています。
表2 東京トルネード社による専有部配管、工法別費用
工期 | 費用 | |
床下隠ぺいによる配管更新工事 (配管工事後、壁、天井、床を復旧) | 1週間~10日間 | 50~100万円/戸 |
室内の壁沿いに配管(化粧カバー付き露出配管工事) | 2~3日間 | 40 ~ 60万円/戸 |
ライニング更生工事 | 2日間 | 20 ~ 40万円/戸 |
化粧カバー付き露出配管は、メンテナンス性は良いですが、美観の問題から推奨出来ません。
100年マンションにするなら、床下隠ぺいによる配管更新工事で、50-70年で除却するならば、ライニングという選択が考えられます。以前は更生を一度実施したら、次回は更新しか選択はないと言われていましたが、最近は工法が進化したようで、配管の状態によっては再ライニングという選択もあるようです。
床下隠ぺいによる配管更新工事の場合は、フロアとスラブの間の床下スペースの高さや、配管がスラブの上か下かなどによって工事は大きく異なります。詳細は工事会社から見積もりをとって比較をして決めましょう。
マンション管理組合目線では、100年マンション長寿命化を推奨しており、共用部の配管を 床下隠ぺいによる 一斉更新することを推奨しています。給水給湯配管ともに近年は、さや管方式による架橋ポリエチレンまたは架橋ポリブデンというチューブへの更新になります。
専有部配管の標準管理規約の扱いについて
2021年6月の標準管理規約に、別表第2 共用部の範囲に、共用部の説明があります。
各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配 管継手及び立て管)等専有部分に属さない建物の付属物が共用部とされています。
なお給湯管はすべて専有部です。
2021年6月の標準管理規約の21条(敷地及び共用部分等の管理)の2
2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。
同コメント ⑦ 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
※赤字部分が2021年6月の改定 共用部分の工事に修繕積立金を使用する場合の留意点が追加
通常マンションは排水配管の高圧洗浄による清掃が、年1回実施していますが、「共用設備の保守維持費」について管理費を充当できるという説明の通りです。
しかし、配管取替えは、各区分所有者が実費に応じて負担となっております。床下配管の修理については、内装復旧を入れると、数十万円から百万円を超える場合もある大掛かりな工事になる場合もあり、漏水事故が多発しない限りは手が付けられないのが実態です。
2021年6月の改定でコメント⑦が追加されて、共用部分の工事に修繕積立金を使用する場合は、管理規約を書き換えて、長期修繕計画に予定することなど留意点が追加されました。
専有部配管の修繕積立金による工事がすすまない理由
管理組合が主体的に、修繕積立金を使って専有部配管の更新をした例は、 マンション専用部分等の配管類更新による再生事例調査報告書 にあるように多数あります。しかし、以下のような理由で簡単には合意形成出来ないため調整が必要になります。
- 専有部配管工事は内装復旧等もあり、工事金額が大きいこと
- 専有部配管更新は、長期修繕計画に予算が含まれていない
- 標準管理規約で専有部とされている
- 中古売買の際のリノベで中古販売業者または、購入者が配管を自費で更新している場合があり、一斉交換すると不平等になる
- 標準管理規約28条に修繕積立金の用途が決められている支出外の用途となる
- 管理組合が専有部配管一斉更新を実施した場合の以後の保証の問題
まずは修繕積立金に余裕がないと出来ないのです。しかし予算の問題は別とすれば、標準管理規約の改定と、区分所有者による合意形成が出来れば、工事は実施出来ます。
標準管理規約の改定案と専有部配管更新細則について考えました。
実務的には以下の手順での検討になります。
- 管理組合による専有部配管のアンケート
- 過去実施したか否か、その時期、修繕積立金使用について実施についての賛否
- 標準管理規約の改定に関する総会決議
- 専有部配管の修繕積立金の使用についての明文化、規約改定の特別決議事項
- 専有部配管劣化調査、工事内容と実施時期の精査
- 組合員の理解があれば、アンケートの実施前にも可能
- 専有部一斉配管工事の実施
専有部一斉配管工事のための標準管理規約改正案
第21条 敷地及び共用部部分等の管理
7 専有部配管の更新を管理組合で一斉に実施する場合、以後のその配管は管理組合の責任と負担においてこれを行うものとする。
第21条 敷地及び共用部部分等の管理 に7項を追加して、管理組合の一斉配管工事を実施した場合の責任を明確化します。
第28条の1項の修繕積立金
六 管理組合が実施する専有部配管の劣化診断調査及び、一斉に実施する修繕工事、および工事後の漏水時の対応費用
第28項の1項の修繕積立金を使用して専有部配管の劣化診断と修繕を実施することが出来ることを明文化します。
第28条の6項
第28条 1項六について、先行して専有部配管工事を実施した区分所有者、又は自己の負担での工事の実施を希望する区分所有者に対する補償に充てることができる。
専有部の工事を管理組合で実施した以上は、以後の保守については管理組合で引き受けることを原則としています。先行して工事を実施した区分所有者には、実施時期に応じて細則で定める補償を行うこととしています。未実施の区分所有者が自己の負担で工事の実施を希望する場合も、細則で定める条件により補償を行うこととしています。
修繕積立金による専有部配管一斉更新細則案について
修繕積立金による専有部配管一斉更新細則案
(趣旨)
第1条 この細則は、専有部配管の一斉更新を管理組合で実施する場合の修繕積立金による用途について、マンションの資産価値の向上を目的として、組合員の合意形成に必要な事項を定めるものとする。
(工事対象)
第2条 専有部配管工事のうち以下の工事を実施する。但し、劣化診断調査等によって最終決定する。
一 給水配管
二 給湯配管
三 雑排水配管
(自己負担工事済の専有部への補償)
第3条 専有部配管工事を自己負担工事済の専有部については、以下の年数によって専有部面積あたりの工事額を専有部面積で乗じた金額について以下の割合を修繕積立金で補償する。
一 組合工事開始時に工事実施から2年経過の場合は、専有部面積あたりの補償額の100%
二 組合工事開始時に工事実施から2年~5年経過の場合は、専有部面積あたりの補償額の80%
三 組合工事開始時に工事実施から5年~10年経過の場合は、専有部面積あたりの補償額の50%
2 専有部面積あたりの工事額とは、修繕積立金を使用して実施した専有部配管工事額を工事実施した全専有部面積で除した金額とする。劣化診断調査費用は工事額に含まないものとする。
3 専有部への補償は、修繕積立金による専有部配管工事の工事会社への支払時期と同時期とする。
4 自己負担工事済の専有部の補償を求める区分所有者は、工事履歴の工事内容、工事期間、写真による工事履歴を、管理組合の工事実施の総会決議3か月前に実施の説明会後に、総会決議2か月前までに理事長に申し出ること
5 工事済の完成図書の確認、専有部配管の立ち入り調査が必要と判断される場合は、調査を受け入れること
(自己負担工事を希望するの専有部への補償)
第4条 専有部配管について自己負担工事を実施していない専有部で、修繕積立金による一斉工事を希望しない専有部の区分所有者は、自己負担で工事を実施するものとする。
2 専有部配管について自己負担工事の実施を希望する場合は、管理組合の工事実施の総会決議3か月前に実施の説明会後に総会決議2か月前までに申し出ること
3 自己負担工事は、管理組合による一斉工事と同じ種類の配管工事を2年以内に工事を終了した場合は、専有部面積あたりの工事額を専有部面積で乗じた金額を修繕積立金で補償する。専有部面積あたりの工事額は前条の2による。
4 自己負担工事を希望する専有部の区分所有者は、工事開始3か月前までに、工事仕様(交換する配管、配管材質、ルート図)、工事スケジュールを理事長に提出して管理組合からの必要な助言を受け入れるものとする。
5 自己負担工事中および、自己負担工事後に、区分所有者は管理組合による専有部配管工事の立ち入り検査を受けいれるものとする。
(以後の専有部配管の漏水事故等の保証について)
第5条 管理組合による一斉工事により更新した専有部配管からの漏水事故等については、管理組合の負担と責任において、これを行うものとする。
2 自己負担で実施した専有部配管からの漏水事故等の対応は、専有部の区分所有者の負担と責任において、これを行うものとする。
過去に自己負担で管理組合が実施した専有部配管工事は、その実施年度に応じて、10年までさかのぼり50-100%の補償額としています。
自己負担での工事実施を希望する区分所有者に対しては、管理組合による一斉更新から2年以内に工事実施することを条件に、補償額100%を支払うとしています。
補償額 = 修繕積立金による専有部配管一斉工事額 ÷ 専有部一斉工事面積 x 補償対象の専有部面積
実際には、修繕積立金で100%工事が実施できず専有部での持ち出しになる場合や、補助金で実施するケースもありえるため、あくまで 一斉工事で使用した修繕積立金の専有部面積割の費用を100%とする細則になっています。
修繕積立金の一斉工事対象の配管をすべて更新していない場合については、上記の案だと対応出来ていません。
工事個所からの漏水に関する保証は、工事後、管理組合実施工事部は管理組合の責任と負担になり、専有部負担の工事箇所は専有部負担となります。
修繕積立金による専有部一斉配管工事補償の流れ
- 専有部配管一斉更新工事説明会
- 総会決議の3か月前
- 組合員の選択
- 総会決議の2か月前、工事実施すみの専有部は補償を受けることを選択できる、または、自己負担で工事を実施する専有部は将来補償を受ける選択することが出来る
- 専有部配管一斉更新工事の総会決議
- 普通決議を想定
- 修繕積立金による専有部一斉更新工事と支払い
- 併せて自己負担工事済の専有部への補償の支払い
- 自己負担組合員の工事実施と保証
- 修繕積立金による専有部一斉更新工事 から2年以内を条件に補償額の支払い
まとめ
- マンションの専有部配管(給水、給湯、雑排水、汚水)は、専有部であり専有部の責任と負担において更新するべきものであるが、築古マンションにおける漏水事故が多発しているのが現状です。
- 2021年6月の標準管理規約改正で、第21条 敷地及び共用部部分等の管理のコメント⑦に、専有部配管について修繕積立金を使用する場合の注意書きが追記されました。
- 専有部の配管材質が、鋼管・銅管の場合で築30年以上経過すると漏水リスクがあり更生・更新工事が必要になります。
- 更新工事を実施する場合の標準管理規約の改正案及び修繕積立金による専有部配管一斉更新細則案を公開しました。
まとめ
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