暴走理事長に対して組合員の総会招集権で対抗する

2021年1月くらいからアドバイザーとして支援してきたマンション管理組合で無事に1/5以上の組合員の総会招集権を使って4月に臨時総会が開催されて、前年の通常総会で決められた給排水配管の劣化診断を実施することを再度議決して、5月に通常総会で理事長も交替となり、無事に給排水配管の劣化診断が実施されることになったそうです。

築40年を近い団地型300世帯弱の大規模マンションでの出来事です。床下配管が床スラブ下階の天井を通っている構造になっており専有部で更新できない事情もあり、管理組合で配管劣化診断を実施することで検討がすすんでいました。

しかし、通常総会決議で決めた劣化診断調査が引き継いだ理事長が実施しないということで止まっていました。今回は、実際にマンション管理組合で起こった事例をもとに、暴走理事長が総会議決事項を実施しない場合の対応をまとめて、最後に今後に向けての私なりのアドバイスをまとめました。

区分所有法、標準管理規約の記述、総会議決事項の実施について

マンション管理組合は直接民主主義で運営されており、総会がマンション管理組合の最高意思決定の場であり、理事長本人の意図と異なる結論でも、組合員の民意として尊重して実行しなければならないという原則になりますが、この原則をきちんと理解していないまま、理事長もいます。

区分所有法第26条には、集会(総会)議決事項を理事長が実行しないと明記されています。

区分所有法 第26条 (権限)

1.管理者は、共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び 附属施設を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を 有し、義務を負う。

管理者=マンション管理組合理事長、集会=総会

つまり、通常総会で決めたことは、次期の管理組合の理事長は実行しないといけないのです。

ところが、理事長が実行しないで放置される場合はどうすれば良いでしょうか?

標準管理規約の第44条の組合員による総会招集権の記述があります。

第44条  組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。

2  理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。

つまり、1/5の組合員が総会を収集して、臨時総会を開催して、改めて議案を通すこともできますし、理事長を解任して別の組合員を理事に選任することもできるのです。

300世帯弱の団地型マンションで起こったこと

築30年を超えるころから、マンションの給排水配管の専有部での漏水事故が、数年前から起こっていたそうです。このマンションでは、排水配管が床下、下階の天井を走っている特殊なつくりをしています。

300世帯弱、築40年近い団地マンションの床下配管

この構造の専有部の配管は、最高裁の判決によれば配管は、共用部扱いになるとされています。

床下専有部配管が、床下スラブ下階の天井上を通っている場合の配管は共用部として最高裁判決になっています。

「マンション専用部分等の配管類更新による再生事例調査報告書」を読む

築40年近い、このマンションでは過去、給湯管・給水管で漏水事故が発生しているそうです。定期的に配管の劣化診断を実施しており、改修時期や改修方法の検討を重ねてきました。

2020年5月の管理組合総会に向けて、修繕委員会で検討を重ねて、配管の劣化診断が予算承認のための準備が進んでいました。ところが、新型コロナウイルス感染症対策が始まっており、通常総会は開催されたものの書面での議決権行使を推奨したため、十分な議論がないまま配管劣化診断の予算が議決されたそうです。

新たに選出された理事長は一向に配管の劣化診断は実施しないので、組合員が問い合わせると、配管は漏水が起こったら都度直せばよいという考え方で、理事長は劣化診断を実施する様子がないことがわかりました。

新型コロナウイルス感染症対策で通常総会で、議論不十分のまま議決されたとはいえ、これはひどいです。何度も理事長や理事会に対して、配管劣化診断の実施を要請したものの、「配管は水漏れが発生したら直せばよい」という考えは変わらず取り合う様子がないという中で、私に相談がありました。

「1/5以上の組合員が部屋番号と名前とを出して総会議案をまとめれば理事長に臨時総会開催を迫ることが出来ます。もし臨時総会開催要請を無視したら、その2週間後に組合員が臨時総会を開催できます」というアドバイスをしました。議案としては、以下の二つを提案をしました。

  • 配管劣化診断の実施の再決議
  • 現理事長の解任と、新理事の選任

まずは、有志の組合員で、理事長が通常総会の決議である配管劣化診断を実施していないという問題や、給排水配管の劣化問題はマンション全体の資産価値の問題であることを、組合員に説明しつつ、配管劣化診断調査の必要性についてのアンケートを実施したそうです。さらに、アンケートの結果をまとめて、理事長も含めて全戸配布を行って周知したそうです。

アンケートによりあらためて配管劣化診断が求められていることが明らかになり、配管劣化診断調査を求める臨時総会開催が1/5以上の組合員の支持が得られる目途がついたようです。但し、理事長解任や交替については、同情的な声もありなんとか話し合いで解決できないのかという意見も多かったようです。

有志の組合員たちは、臨時総会議案としては、配管劣化診断調査の実施を求める議案のみとして、役員の解任および、新役員の選任をもとめるまで追い込むことはしないという方針にしました。つまり、配管劣化診断調査を実施するならば、役員を継続しても良いという決議を臨時総会で実施するということにしたそうです。

2021年4月の臨時総会の議決と、5月の通常総会の議決

1/5以上の組合員が名前と部屋番号を出して議案をまとめて、理事長に臨時総会開催を要求したことについては無視されたため、予定通り組合員による配管劣化診断調査実施の臨時総会を招集して、配管劣化診断調査は実施は過半数の議決を得ました。

この管理組合では、立候補優先で1年ごとの棟別の輪番制の役員制度をとっています。5月末の通常総会には、配管劣化診断については一切触れずに、何事もなかったかのように理事長は出席して、この1年で検討してきたいくつか議案を通して予定通りに、7月末に任期で退任の予定だそうです。

しかし最後まで、配管劣化診断については理事長と意見交換することなく終わってしまい、後味の悪さが残ったようです。しかも4月の臨時総会はなかったかのように、通常総会で、理事長があげた18議案が提案されてすべて議決されたそうです。

その中には、団地型であることを考えると、一部の棟のための駐輪場の屋根をつけるなど規約上は望ましくない議案なども議決されたそうです。人気の取りのような議案が、反対の声もあったものの議決されたことは、望ましくないと有志の組合員はおっしゃっていました。

有志の組合員が動き回って、理事長に是正を求める動きが成功しても、1か月後には、多くの組合員が管理規約を理解せず、多くの組合員がポピュリズムに流されるというかと嘆いておりました。

日本も諸外国も、間接(議員制)民主主義も機能しているとは言い難いですが、マンションという小さな直接民主主義もうまく回すことも難しいのだと、お話を伺って思いました。

時系列にまとめると以下となります。

2020年通常総会 配管劣化診断の実施について議決、新理事長選任
(新型コロナウイルス感染症対策もあり、書面による議決権行使が推奨となり議論は不十分)
2021年1月 理事長が配管劣化診断を実施する気がないことが確認される
有志組合員によるアンケートによる意向調査後を実施
2021年3月 1/5以上の組合員による臨時総会開催の要求を理事長に要請、理事長無視
2021年4月 1/5以上の組合員による臨時総会で配管劣化診断議案が再度可決(理事長は欠席)
2021年5月 通常総会、何事もなかったかのように開催、理事長退任予定(7月末)
最後まで理事長とは、配管劣化診断について議論されることなく後味が悪いまま。しかし、現理事長の人気取りのような議案も通ってしまい、後味の悪さを残す。

最後まで、理事長と有志の組合員の間で、配管劣化診断調査の実施について議論されなかったことは残念なことでした。

しかし、築40年近いマンションで床スラブの下を配管が通る構造であるため共用部として今後の扱いを決めないといけない状況で、有志の組合員が動いて配管劣化診断調査を求める動きはしたことは大きいです。何故なら、配管劣化診断調査実施からが本番で、合意形成が苦労するのは目に見えていますから。

今後に向けてのアドバイス

この団地型300世帯弱、築40年近いマンションは区分所有者も高齢化が進んでいます。長寿命化を目指すのか、どこかのタイミングで取り壊して敷地売却を目指すのかなど、本質的な議論を進めなければ行けない時期に来ています。

300世帯近くの床下配管を更新するとなると、1世帯50万円でみても、1億5千万円、100万円で見ると、3億円という予算になります。

給水、給湯、雑排水、汚水まで、横配管、縦配管まで更新にするのか、配管は、床上のスラブを通すことはできないのか、雑排水管はライニングによる更生で対応できるのか、など劣化状態を見極めて、検討する必要があります。

国交省の住宅市場整備推進事業で特定非営利活動法人「全国マンション管理連合会」が、首都圏、関西、中部、北海道から全国の32の事例、うち給水管・給湯管・雑排水管・汚水配管のいわゆる配管については、共用部・専有部で27の事例については、こちらのリンクから。

「マンション専用部分等の配管類更新による再生事例調査報告書」を読む

このマンションでは前理事長は配管劣化診断には必要性を感じなかったわけで、配管の一斉更新という億単位の投資に対して、前理事長は反対に回る可能性が高いです。ほかにも同調する組合員もいると思われます。

最高裁で共用部とみなされている床下配管とは言え、大きな費用となる工事となるため合意形成が大変です。配管ルートを変えずに共用部の変更には当たらないという解釈で過半数の支持が必要となるため、以下のような区分所有者向けアンケートをして進めていくことがポイントになるでしょう。

  • 配管の交換を個人で実施しているか?(床スラブ下階天井上の配管なので、下の階の専有部の立ち入りが必要となるため、恐らくは実施した部屋はないはずである)
  • マンションの長寿命化についての意見(60年寿命と考えるか?出来る限りの長寿命化をするか)

長寿命化で意見が一致すれば、配管一斉交換の工事に向けて議論を進めることになります。

しかし、アンケートを回答しない組合員も多いはずで、個別訪問による説明なども必要になるでしょう。

下の階の専有部に入っての工事になるため、総会議決をした上で、最後は、個別に区分所有者および、住民から同意書をとらないと工事が始まってからトラブルになる可能性があるので、管理組合での戸別訪問は避けられないでしょう。

高齢化がすすむ300世帯の築40年近いマンションですが、なんとかコンセンサスを得て必要な修繕がすすむことを願っています。

まとめ

  • 300世帯弱の築40年近い団地型マンションでは、床下配管が床スラブ下階の天井を通っている構造で下階専有部に立ち入らないと配管の更新ができない構造となっていることから、管理組合主導で、配管劣化診断調査を進めていました。
  • 2020年の総会議決で議決された配管劣化診断調査が、引き継いだ理事長が実施する意思がないことが明らかになり、有志の組合員は理事会に申し入れしましたが相手にされずに、1/5以上の組合員による総会決議を実行しました。
  • 臨時総会では、改めて配管劣化診断調査実施が過半数で決議されて、来季に配管劣化診断調査は実施されることになりました。
  • 今後、劣化診断結果をもとに、配管更生・更新を検討することになります。工事となると階下への立ち入りがあるためアンケートおよび戸別訪問で丁寧にコンセンサスを得ることが求められます。

以上