標準管理規約を読むその1でマンション管理組合の理事長の仕事について説明しました。
基本的には、理事長の仕事は、総会で議決権行使書を含む出席組合員の過半数(特別決議は組合員総数および議決権総数の3/4)で決めたことを、総会で決めた予算で、総会終了後の1年間で粛々と実行することと、翌年の総会で承認してもらう議案を1年間かけて検討することです。

築30年以上の280名の団地型マンション管理組合員の方から相談を受けました。
2020年の通常総会は、新型コロナウイルスに影響で決議事項について、大部分の組合員の意思が議決権行使書、委任状で決議されたこともあり、総会後の今季の新理事長が決議された事業を実施しないという問題が起こっているそうです。


具体的には給排水配管の劣化診断を総会で予算化したにもかからず実施してもらえない事態になっているそうです。
30年以上経過した給排水配管は、漏水の恐れは十分にあるため、劣化診断調査を実施して、状況によっては更新すべき時期でしょう。

理事は団地の各棟から輪番制で、選ばれて理事長は理事会で選出されたようですが、理事長が暴走している典型的な事例です。
仕事を放棄しているというよりも、総会決議事項を無視して勝手に自分のやりたいことをやり始めたという状態だそうでで、給排水配管の劣化については、配管から漏水したらそのとき此処に対処すれば良いという認識を示しているそうです。
暴走理事長、こんなとき、組合員はどうすればよいのでしょうか?

国交省が出しているマンション管理標準管理規約(単棟型)を解説しながら説明します。

理事や監事を通じて理事会で給排水配管の劣化診断の実施について依頼する
それでも理事長が無視する場合は次へ
理事会で理事長を解任して、新しい理事長を選出することが出来ます。
理事がそのような動きが出来るメンバーでない場合は次へ
1/5の組合員で理事長の理事解任と新理事選出の議題で臨時総会を開き、理事長の理事解任と新理事の選任
ここまでやるのが究極の手


という流れで、理事長を解任、新理事長を選任することが出来ます。

以下、詳しく標準管理規約を解説します。

理事会での理事から理事長への依頼について

標準管理規約 第51条2 理事会の業務として、

第51条2 理事会 一、規約若しくは使用細則等又は総会の決議により理事会の権限として定められた管理組合の業務執行の決定

と定められています。つまり、総会の決議に従って理事会として業務をすすめないといけないということです。

理事長が、理事が総会の決議の実行について促しても動き出さない場合は、次のアクションが出来ます。

第51条2の三(理事会)には、「理事長、副理事長及び会計担当理事の選任」とされています。

この条項をみる限りは理事会で、理事長の選任は出来ても解任は出来るかどうかは明らかでありません。

しかし、平成29年12月18日に最高裁で争われて判決が出ており、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができるとされました。
平成29年(受)第84号 総会決議無効確認等請求本訴,組合理事地位確認請求反訴事件 平成29年12月18日 第一小法廷判決

福岡市のある分譲マンションで、15名の理事で構成される理事会での決議を得ずに、他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るため、理事長が臨時総会の招集通知を発したことに対して、別の理事11名が出席した理事会で、この福岡のマンション管理規約の「理事長及び副理事長等は,理事の互選により選任する」に基づいて、理事11名の別の理事Aを理事長にして、現理事長には降りてもらう解任決議を11名の同意で行いました。ところが解任された理事長が、このマンションの規約では、理事の互選で理事長を選ぶことを定めているが、解任については記載がなく、役員の解任については、総会の議決事項として定めていることから、理事会での理事長の解任については無効であるとして裁判を起こしました。

最高裁の判決は以下となり、理事会での理事長の解任は妥当なものとされました。

”理事長を建物の区分所有等に関する法律に定める管理者とし,役員である理事に理事長を含むものとした上,役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとする一方で,理事を組合員のうちから総会で選任し,理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては,理事の互選により選任された理事長につき,当該規約中の理事の互選により理事長を選任する旨の定めに基づいて,理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる。”

建物の区分所有等に関する法律とは、通称は区分所有法といわれるもので、国交省の標準管理規約の裏付けとなっている法律です。

この最高裁の判決から標準管理規約の第51条2の三(理事会)、「理事長、副理事長及び会計担当理事の選任」とあり、第48条(総会の議決事項)の「役員の選任及び解任」では、管理組合では、理事会で理事長を解任して、別の理事を理事長に選任できることになります。

とはいえ、理事会で、理事長の解任までの動きをしない場合は、組合員が動くしかありません。

組合員による臨時総会の開催

標準管理規約で臨時総会を招集できるのは、だれでしょうか。

第42条(総会)の4  理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時総会を招集することができる。

とあります。まず、理事長の解任が目的の臨時総会を理事長が必要と認めることはありませんので、理事長が臨時総会を招集することはありえません。

第41条(監事)の3 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。

とあります。監事が、臨時総会を開催する場合は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときであるため、総会で議決した給排水配管の劣化診断の実施を行わないことに対して、財産の不正とは言えないため総会を招集できません。

第44条(組合員の総会招集権)  組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。
2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。
3  前2項により招集された臨時総会においては、第42条第5項にかかわらず、議長は、総会に出席した組合員の議決権の過半数をもって、組合員の中から選任する。

とあります。

組合員の総会招集権を使うことによって、臨時総会を開催することが出来ます。その時の議長は総会で議決権の過半数により選任されます。

第48条(総会議決事項) 十三  役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法

総会で、役員の選任及び解任が決議できることになっていますので、組合員総数と議決権総数の5分の1以上にあたる組合員の同意を得て会議の目的を示して総会の招集することになります。

このマンションのケースでは、理事長を解任する議案としては
理事長〇〇の理事の解任、新理事××の選任
総会決議事項である給排水配管の劣化診断の実施
を決議事項として臨時総会を招集すれば十分でしょう。臨時総会で議決されれば次の理事会で、新理事長が選出されます。

組合員数280名のマンションで、1/5以上とは、56名以上ですから、総会招集する組合員はそれなりに骨を折らないといけません。56名の連名で議案をつくって、まずは、第44条の2に従って56名の連名で理事長に臨時総会請求します。理事長が2週間以内に招集通知を出さない場合は、管理会社に経緯を説明して、招集依頼をすれば、組合員への招集手続きなどを実施してくれるはずです。

しかし、マンションの動脈、静脈ともいえる給排水配管の劣化診断を総会決議されたにも関わらず実施しないのはあり得ないことです。なんとか実現していただきたいところです。

以上で、国交省が出しているマンション管理標準管理規約(単棟型)を使って、組合員による総会招集による、暴走理事長の解任についてまとめました。

まとめ

  • 理事長の仕事は、総会で決議されて予算化された事業をよく事業年度で実施することですが、実施しないで好き勝手なことをやりだす暴走理事長もいます。
  • 理事会で、他の理事が理事長を促すことが必要ですが、それでも暴走理事長が言うことを聞かない場合は、理事長の解任と新理事長の選任を、理事会で出来るのですが、理事が動かない場合もあります。
  • その場合は、1/5以上の議決権総数と組合員総数の同意を得て、臨時総会を開催して、理事長の解任と、新しい理事長の選出を行えば理事長を変更することが出来ます。

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