大規模修繕工事の進め方は、設計・監理方式と、責任施工方式があります。このほか、CM方式というのもありますが、あまり普及していないのでこのブログでは紹介しません。 管理会社が工事部門を持っており、大規模修繕工事の元請けをする会社の場合は、管理会社に提案されるままに大規模修繕工事に発注する管理会社お任せ方式というのがありますが、設計・監理方式の設計・監理を管理会社が引き受けて管理組合に十分な情報提供をせずにすすめているのであって、異なる方式ではありません。
大規模修繕工事、とくに20-30世帯程度の中小マンションの場合で、エレベータ、機械式駐車場もあるなどがあるマンションでは、修繕費は築30年くらいから大幅にアップしていきます。中小マンションの限られた予算で大規模修繕工事をすすめるには、適正価格で品質の高い工事を行って、修繕積立金は、しっかり積み立てて行きたいところです。
設計・監理方式について詳しく説明しています。50世帯以下の中小マンションの場合は、設計・監理方式ですと工事費に対する設計・監理費の割合が5-10%くらいになり、リーズナブルには出来ないという説明をしています。
中小マンションの大規模修繕工事 設計監理方式を採用すべきでない理由
では、責任施工方式では、リーズナブルに大規模修繕工事をうまく進められるかというとそうではありません。このブログでは、以下の流れで責任施工方式を説明して、設計監理方式、管理会社設計・工事会社責任施工方式と比較します。
目次
将来から逆算して選ばれるマンションになるためには?
国交省が公開している情報によれば2020年末の時点で築50年を超えたマンションは15.8万戸ですが、20年後の2040年末には、231万戸に達します。
人口減少はこの先20年で加速して、国立社会保障・人口問題研究所の統計によれば、現在の約1億2千500万人から、2040年には、1億1千万人台まで1400万人程度、減少するという予想になっています。これは、国内の分譲マンション675万戸(国交省公開データ)のマンションの住んでいる人口と近い数字です。
既に空家率は、13.6%(総務省2019年住宅・土地統計調査)と過去最高となっており、これからは住宅が極端に余る時代となります。古いマンションが中古市場、賃貸で選ばれるためには、修繕がしっかりされていることは大前提になります。
マンションの修繕費は築20年くらいまでは、大規模修繕工事だけを実施していれば良いですが、築30年を超えるころには、排水管・給水管の竪配管工事、エレベータなど修繕に必要な費用が膨らんでいきます。新築時の大規模修繕工事の設定が平米あたり80円程度と低い設定のままでは、管理組合で適正価格まで値上げが出来ていないマンションではなおさらです。修繕積立金が適正価格の200円/m2程度になっていることは前提で、かつ、大きな修繕工事できちんとコストを抑えて品質を維持していくことが何よりも大事です。
マンションは自分が生きている間だけ修繕維持されていることが大事でしょうか?
自分のライフプランと重ねて考えてみましょう。2040年には、何歳になっているのか?マンションに住んでいるのか、実家を相続した場合、実家に住むのか?自分のマンションに住み続けるのか?自分が死んだときは、相続するのは誰になり、何歳でマンションがどんな状態であれば望ましいのか?
古いマンションは建替えればと考えるかもしれませんが、建替えはほとんどの分譲マンションが不可能と考えたほうが良いです。容積率と建蔽率いっぱいで立てているマンションが大部分であるため、多少規制が緩和されても区分所有者の持ち出しが2千万円以上となり、話がまとまらないのです。マンションの建替え等の円滑化に関する法律の要件である区分所有者及び議決権数の4/5以上による建替え決議の合意が得られない可能性が高いです。面倒くさいの賃貸マンションに移動するか、売却して中古マンションを購入したほうが良いという結論になるのです。
築30年を超えたマンションでは、管理組合員向けに長寿命化についてのアンケートや、総会などで話し合って、何年先までマンション修繕・維持していくべきかなど意識調査を行うことをお勧めします。若いオーナーほど、積極的にマンション修繕・維持にかかわらないと行けない気づくきっかけにもなるでしょう。
長寿命化が必要ということに気づくでしょう。このように未来から逆算していくと、多くのマンションが大規模修繕工事など大きな工事では予算を抑えて、しっかり実施して、2040年でも価値を維持していくというのが結論になると思います。
責任施工方式とは?
大規模修繕工事のおける責任施工方式とは、どんな方法でしょうか?工事会社に設計書(工事仕様書と設計明細)なしで、設計と工事の両方を見積もり提案してもらって進める方式です。
管理会社が責任施工方式を進めてくることはありません。少なくても管理戸数の上位50社くらいの管理会社のホームページを見た限りで、そのような管理会社は見当たりません。理由はずばり工事費が下がらずに儲からないからです。
管理組合で行ったアンケートなどで大まかに工事範囲を決めて、工事会社の選定条件にあう工事会社に、設計と工事の見積を依頼することになります。コンペにするのであれば、複数社にお願いしてそれぞれの設計、提案を比較して、良い工事会社1社選定して、最終工事範囲、工事金額を決めて管理組合で理事会、総会決議を得て、発注するという流れになります。
設計という時間と工数がかかる業務を、工事会社に無料で作成提案をお願いすることになります。設計とは、具体的には工事仕様書と設計明細を作成することで、竣工図(管理組合が管理している新築時の建物と設備の設計図面)と、現地調査をもとに作ります。
工事仕様書と設計明細については、以下のブログで詳しく説明していますので参照ください。
マンション大規模修繕工事、設計書作成とチェックポイント、その2
日本の建設業は、設計と工事は、新築物件も修繕物件も役割分担がはっきりしており、設計は一級建築士事務所が実施、工事は工事会社が実施する分業になっています。設計は有料で実施するべきものです。一級建築士事務所の仕事で設計費を払ってお願いすることになります。
通常は有料で設計事務所に依頼する設計が、工事会社に無料で依頼するということは責任施工方式の見積はそもそもリーズナブルな価格になりえません。さらに、コンペになる場合は、各社で設計が変わってしまうため、管理組合で提案を比較が出来ないという課題があります。
では、責任施工方式はどのようなときに採用されるのでしょうか?それは、管理会社の提案が管理組合と折り合わない場合に採用されることがあります。コスト面やその他の理由で決裂してしまった場合に管理組合が自力で行う際に、工事会社に直接依頼することがあり、その時に責任施工方式となります。
さらに、責任施工方式を推奨しているコンサルタントである株式会社 さくら事務所や、一般社団法人 全国建物調査診断センターなどに依頼する管理組合もこの方式を選択することになります。
さくら事務所の説明によると、さくら事務所のホームページでは、『大規模修繕工事において、詳細な「設計」も新築工事のような「(工事)監理」も本来必要ではないと考えています。』とあります。後者の監理が必要ないというところは同意できますが、設計が不要という部分は修繕コスト削減士の私と考え方が違います。設計は、コンペに参加してくれる工事会社から共通の工事範囲の見積を得るために、さらに多くの工事会社にコンペに参加してもらうために必要だと考えています。
全国建物調査診断センターは、責任施工方式で採用するとアピールしていますが、設計監理についてとくに言及していません。彼らのコンサルタント費がリーズナブルであることをアピールしています。確かにコンサルタント費はリーズナブルなのですが、果たして管理組合目線で、コンサルタント費と大規模修繕工事のトータルコストがリーズナブルであるであるのかは、疑問を持たざるを得ません。
責任施工方式での課題は、工事会社ごとに見積もり範囲や提案内容が変わってしまうため、どの提案が妥当なのか判断が出来ない点にあるので、それらをコンサルタントが見極めてアドバイスするという進め方は理解できます。
責任施工方式は、設計を工事会社が実施していないため、実数清算による見積もり時の差異を除いて、追加工事が発生しづらい、というメリットがあるとは言えるでしょう。さらに、1社にお願いすることで、間に設計会社、管理会社などが入らないのでバックマージンリスクもないこともメリットと言えるでしょう。
デメリットは、工事会社に工数がかかるために受注できる確度が低いと提案してもらえないことです。御社に工事をお願いしますので設計からお願いしますと依頼すれば引き受けてもらえますが、その場合は、工事会社もシビアなコスト提案をしてくることはありません。
さらに、設計と工事見積の両方を実施するために時間がかかるというのも課題です。3か月以上見ないと見積もりは出揃わないと考えたほうが良いでしょう。
このような理由から、競争の原理が働きづらいので工事価格を引き下げるためには責任施工方式は良い方式とは言えません。
設計監理方式と管理会社お任せ方式とは
設計会社、または、管理会社の工事部門が採用する方式です。
建物劣化診断を実施して、併せて住民アンケートを実施して、大枠の工事範囲を決めたのちに設計を依頼して、工事仕様書と設計明細を作成します。工事会社選定条件を定めて、条件に合う工事会社から見積もりをとって見積書の比較を行って、工事会社を選定します。通常は上位2-3社に組合員も参加してもらってプレゼンテーションとヒアリングをして工事会社を決めて、理事会決議、総会決議して発注して工事が始まるという流れになります。
工事の元請けをしないポリシーの管理会社または、一級建築士事務所(設計会社)にコンサルタント業務を依頼すると、劣化診断調査、設計(見積明細、工事仕様書の作成)、工事会社選定補助、工事監理の4つの見積をセットで提示してきます。
見積明細、工事仕様書があれば工事会社への見積依頼は容易です。現地調査を行って、設計明細が大きく違っていないかは確認しつつ、エクセルに単価を入れるだけなので、比較的短い期間で見積もりすることが出来ます。2か月程度で工事会社からの見積は出揃います。また設計明細という統一したフォーマットに項目ごとに見積もりの入力してくれるので、管理組合が素人でも比較しやすいのです。
コンペに参加する会社も増えて競争の原理が働くためコストが下がるのが大きなメリットです。但し、工事監理の費用もセットで提案されるのは、中小マンションにとってはコストは上がります。
設計監理方式では、悪徳コンサルタントがバックマージンをとられているリスクあります。通常は、劣化診断、設計、業者選定補助、工事監理で、200-300万円程度かかるところを、30万円などの提案をしてくる設計会社があれば、間違いなく悪徳コンサルタントですので、お断りしてください。
工事仕様書、設計明細を有料で依頼していますので、設計会社や管理会社の見積とは別に、管理組合で別途見積もりをとることをお勧めします。というかバックマージン対策として必須だと理解してください。
管理会社お任せ方式
工事の元請けをするポリシーの管理会社にお任せにするのが、管理会社お任せ方式ですが、設計監理方式をあまり説明しないですすめている設計監理方式の亜流だと理解してください。
劣化診断調査が提案されて、その結果から、そろそろ大規模修繕工事が必要な時期ですという説明がされます。複数社の見積をした結果、管理会社の提案がもっともリーズナブルですと提案してきますが、実際には、かなり管理会社の利益が載った提案が出てきます。工事を受注すれば、劣化診断調査費、設計費、工事会社選定補助の工数を取り返せるため、何事もなかったかのように無料で提案するのが工事元請けをする管理会社の特徴です。言うまでもなく、外部のまともな設計事務所にお願いする設計監理方式より高く、信頼できる工事会社1社にお願いする責任施工方式より高い修繕工事になります。
管理会社設計・工事会社責任施工方式とは?
マンション修繕コスト削減士は、管理会社設計・工事会社責任施工方式を推奨します。設計・監理方式から設計会社による工事監理を除いた方式です。
この方式は、工事前々年の通常総会の前に、管理会社に劣化診断調査と設計(工事仕様書・設計明細作成)を依頼します。予算取りして、工事前年に管理会社の設計してもらい、工事仕様書・設計明細を入手します。設計明細はエクセルで提供してもらいます。仕様書・設計明細とマンションの竣工図で、複数の工事会社から見積もり取得します。管理会社も特別扱いせずに工事会社の1社として見積もり依頼してもらいます。
工事会社選定条件を設定して管理会社も含めて最もリーズナブルな2社から、プレゼンテーションとヒアリング会を実施して、最終選考して、責任施工方式で発注することで、監理費を払うことなく工事をすすめるため最もリーズナブルな工事になります。
分譲マンションの大規模修繕工事では、通常、工事仕様書に工事期間中に現場代理人(現場監督)常駐という条件をつけます。区分所有者や賃借人から様々な要望や、相談が発生するため工事期間中は常駐窓口が必須です。施工会社の工程の調整も行いますので、現場代理人は常駐が必須の条件になります。常駐の現場代理人がいれば、監理業務も実施しますのでわざわざ第三者に監理を依頼しなくても十分です。50世帯以下であれば、現場代理人1名で十分に監理できます。
工事会社を選定するときの条件と、工事会社選定のヒアリング会で現場代理人に来てもらい、しっかりヒアリングをして工事会社を選定することがポイントです。
大規模修繕工事の進め方比較
表1 大規模修繕工事、進め方比較
責任施工方式 | 設計・監理方式 | 管理会社設計・工事会社責任施工方式 | |
設計 | 工事会社 | 設計会社(管理会社) | 管理会社 |
施工 | 工事会社 | 施工方式 | 工事会社 |
監理 | 工事会社 | 設計会社 | 工事会社 |
提案する工事会社の数 | △少なくなりがち | 〇多い | 〇多い |
見積もり比較 | ×各社バラバラで素人にはわからない | 〇容易 | 〇容易 |
見積もり期間 | △長い、3か月以上 | 〇短い、2か月以内 | 〇短く、2か月以内 |
設計費 | 〇無料だが、工事費に含まれる | 〇別途 | 〇別途 |
工事費 | △高くなりがち | ◎複数依頼で競争原理効果 | ◎複数依頼で競争原理効果 |
バックマージンリスク | ◎コンサルが間に入らなければリスクなし | △設計会社、管理会社のバックマージンリスク | ◎直接工事会社に発注すれば問題なし |
監理費 | 〇なし | △工事会社現場代理人と二重コスト | 〇なし |
品質 | 〇 | ◎工事監理ダブルチェック | 〇 |
設計漏れ追加リスク | ◎工事会社設計のため、後か追加とは言えない | △抜けがあれば発生 | △抜けがあれば発生 |
トータルコスト | △ | △〇 | ◎ |
中小マンションの場合は、設計監理方式で、5-6社以上の工事会社から見積もりをとることでコストを削減する効果と、責任施工方式で1-2社に依頼する方法とどちらがコストが下げられるかというと、ケースバイケースでなんとも言えませんが、設計監理方式で6社以上見積もりをとれば、責任施工方式よりコストは下げられるでしょう。その両者のメリットを活かした最もコストを削減できる方法が、管理会社設計・工事会社責任施工方式です。
50世帯以下の中小マンションでは、予算規模が小さいため監理費をかけない管理会社設計・工事会社責任施工方式を推奨します。100世帯を超える大きなマンションでは、設計監理方式でしっかり工事監理にも予算をかけて進めることも選択の一つでしょう。この場合はくれぐれもバックマージンされないために、工事仕様書と設計明細をもとに、管理組合でも独自に見積もりをとることをお勧めします。
まとめ
- 2040年には、人口が約1400万人減少して空家問題は深刻化します。築50年を超えるマンションは231万戸に達し、築古中古マンション市場は、中古市場でも、選ばれるマンションと選ばれないマンションの二極化します。
- 責任施工方式は、大規模修繕工事の設計と工事の見積りを、大規模修繕工事会社にまるまる見積もり依頼する方式です。設計無しでの見積依頼となるため、各社の提案は工事範囲や仕様は統一されずに、管理組合は判断しづらいです。工事会社は、設計費が持ち出しになるため、受注できる確度が低いと提案しづらくなりコンペに参加しづらく、競争の原理が働かないため、トータルコストは下がりません。
- 設計監理方式は、工事監理の費用が発生するため中小マンションでは、割高な傾向になります。管理会社設計・工事会社責任施工方式が最もリーズナブルに工事を進めることが出来ます。
以上
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