このブログでは、国交省が分譲マンション管理組合向けに作成した「マンション管理計画認定の関する事務ガイドライン」と、「助言・指導及び勧告に関するガイドライン」についてまとめて、気になった点をマンション管理組合目線としての意見をしたいと思います。
目次
人口減少とマンションストック数
2021年6月の総務省の発表で令和2年国勢調査の結果として、2015年10月から2020年10月までの5年間で人口減少が86万8千人と0.7%減少(12月に、94万9千人に訂正)したと報道がありましたが、2040年の人口減少、1000万人~1400万人くらいになることが見込まれております。首都圏でどれだけ減少するかは分かりませんが、影響は大きいはずです。
人口減少については詳しくは、こちらのブログにて解説しています。
2040年人口1000万人減少の衝撃と築古マンションのやるべき事
新築マンションの供給は10万戸程度のペースに対して、建替えや除却は、年10棟、程度。100世帯としても1000戸なので、桁が二つ違います。
新築マンションを市場の原理に任せて供給しつづけると、今後は、人口減少に対してストックが増えすぎて、既存マンションの価値が下がり、空室問題、管理費・修繕積立金の未納問題が起こることが予想されます。
住宅専用の分譲マンションを、オフィス・店舗用、民泊などへの切替ることは、いろんな意味で敷居が高く簡単には出来ず、マンションの空室率は上がっていくことは避けられないでしょう。
築古ほど、空家率があがっていくことがわかっています。
国交省は建て替えが簡単でないことがわかってきている以上は、いまやるべきことは、新築を抑制する政策です。
適正化法、建替円滑化法の改正
国交省は、本来、新築マンション規制を行うべきところですが、業界の圧力から簡単にはいかないのでしょう。新築規制に手をつけず、今出来ることとして既存マンションの長寿化のために2020年6月に、マンション管理適正化法の改正、耐震性能や外壁問題など安全性の問題が発生したマンションには建替え・除却を促進するためのマンション建替円滑化法の改正を行いました。
供給は、10万戸/年規模、建替え棟数は10棟/年でそして人口は2040年までに、1,000万人減少、ストックがどんどん増えて行きます。そのストックを、スラムマンション化にしないようにという対処療法が、今回の改正の狙いです。
建替円滑化法で、建替えや除却はしやすくなりますが、そもそも、管理組合と合意形成と費用負担の問題あるので、建替えのペースは変わらないでしょう。
建替円滑化のための建替の条件緩和や、除却条件の緩和については、こちらのブログを参照ください。
マンションの長寿命化、建替え・売却 法律はどう変わるの?
このブログでは、マンション管理適正化法を改正のためのマンション管理計画認定の関する事務ガイドラインと、助言・指導及び勧告に関するガイドラインについて説明します。
管理計画認定と、助言・指導及び勧告に関するガイドライン
マンション管理適正化法の5条の2に、「助言・指導及び勧告」が追加されて、5条の3に「管理計画の認定」が追加されました。
助言・指導及び勧告を行うのは、市・区です。国交省が作成した「マンションの管理の適正化の推進に関する法律第5条の2に基づく助言・指導及び勧告に関するガイドライン」に基いて市・区が行います(表1の左側)。
管理計画認定するのも、市・区です。国交省が作成した「マンションの管理の適正化の推進に関する法律
第5条の3に基づくマンションの管理計画認定に関する事務ガイドライン」に基いて市・区が行いますが、市・区による独自基準も追加出来るようなガイドラインになっています(表1の右側)。
2022年4月から開始されますが、自治体によって準備ができたところから開始です。
表1 マンション管理適正化法、助言・指導・勧告と、管理計画認定基準
適正化法 5条の2 助言・指導・勧告 | 適正化法 5条の3 管理計画認定基準 |
(1)管理組合の運営 | |
①管理者等が定められていること | ①管理者等が定められていること |
②監事が選任されていること | |
③集会が年1回以上開催されていること | ③集会が年1回以上開催されていること |
(2)管理規約 | |
①管理規約が作成され必要に応じて改正 | ①管理規約が作成されていること |
②マンションの適切な管理のため、管理規約において災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理等について定められていること | |
③マンションの管理状況に係る情報取得の円滑化のため、管理規約において、管理組合の財務・管理に関する情報の書面の交付(又は電磁的方法による提供)について定められていること | |
(3)管理組合の経理 | |
管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理を行い、適正に管理すること | ①管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること |
②修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと | |
③直前の事業年度の終了の日時点における修繕積立金の3ヶ月以上の滞納額が全体の1割以内であること | |
(4)長期修繕計画の作成及び見直し等 | |
適時適切な維持修繕を行うため、修繕積立金を積み立てておくこと | ①長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額について集会にて決議されていること |
②長期修繕計画の作成又は見直しが7年以内に行われていること | |
③長期修繕計画の実効性を確保するため、計画期間が30 年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること | |
④長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと | |
⑤長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと | |
⑥長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない長期修繕計画となっていること | |
(5)その他 | |
①管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること | |
②都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること |
項目は、マンションの長寿化のための長期修繕が出来るためにするべきことにフォーカスされています。
助言・指導・勧告は、これが実現できていないレベルの5項目で、管理者(理事長)に、自治体から文字通り、助言・指導・勧告できるというレベルのものです。
管理計画認定は17項目、全部クリアできると、認定をもらえるようです。建物設備の維持のために主に長期修繕計画と、必要な修繕積立金と運営する管理組合が機能しているかをチェックします。5年毎に認定の更新が必要です。
自治体に申請するのですが、マンション管理士による事前確認があります。実質的にはマンション管理士が認定するようで、マンション管理士の仕事を作りたいという狙いがありようです。
認定をもらうことで、公益財団法人 マンション管理センターのサイトで、管理計画認定マンションとして公開されること及び、独立行政法人 住宅金融支援機構の【フラット35】及びマンション共用部分リフォーム融資の金利の引下げ等を行うことが検討されています(2021年11月現在)。
修繕に問題が出てくるマンションは、自治体から助言・指導・勧告、修繕がきちんと出来るマンションには、ご褒美として、中古でも売却しやすく、組合がローンも受けやすくと優遇することで、管理計画認定をとるように促しています。
助言・指導及び勧告に関するガイドラインについて、気になったこと
5項目は、管理組合が、どこかの管理会社と管理委託契約していれば実現できるレベルの項目です。
管理会社に委託しているマンションでは、管理費と修繕積立金が分離管理されているでしょう。違和感のある項目はありません。
但し、有名な大手管理会社に委託している管理組合でも、機械式駐車場使用料を管理費会計に繰り入れている、或いは、50%は管理費に回しているなどの例を見かけます。
機械式駐車場の修繕積立金が積み上げられていないと同じなので、「適時適切な維持修繕を行うため、修繕積立金を積み立てておくこと」が実現できていないと考えて良いです。機械式駐車場使用料は全額修繕積立金に組み入れるようにしましょう。
その他、気になったのは、9ページ目の下記の部分です。
マンションの管理の適正化の推進に関する法律第5条の2に基づく助言・指導及び勧告に関するガイドライン(P9より)
管理者等は、必ずしも当該マンションの区分所有者である必要はなく、自然人である必要もないことから、マンション管理士やマンション管理会社などの法人とすることも可能である。このような外部専門家を管理者等として選任する手法として、国土交通省で作成している「マンション標準管理規約」コメントの別添1「外部専門家の活用パターン」の「②外部管理者理事会管理型」等や「外部専門家の活用ガイドライン」を参照されたい。
国交省のドキュメントの中で、管理者に、マンション管理会社が法人として就任することについて触れていることです。管理組合とは、利益相反の関係にあるマンション管理会社が管理者になることを是認しており、外部専門家の活用パターンの利益相反の記述について回避することは難しいです。
外部専門家の活用ガイドライン(P21より)
④利益相反取引等管理組合の利益を損なう行為への対応
・ 管理組合役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはいけません。とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっています。
管理会社が、第三者管理者を務めて、自社に大規模修繕工事を発注することは、まさに管理組合の利益を犠牲にして、自己の利益を図る行為となります。
助言・指導・勧告を受けるレベルの管理組合の総会で、管理会社の第三者管理者が発注額を膨らませていないか、管理組合が食い物にされることのないようにしましょう。ほっておくと将来、修繕積立金の高騰という形でつけが管理組合に回ることになります。
管理費・修繕積立金が適正価格でないマンションは、中古市場で選ばれないマンションになります。
国交省は、本来なら望ましくない管理会社による第三者管理について書くということは、修繕不全、マンションスラム化に陥るよりは、管理会社に任せたほうが良いという判断をしたのでしょう。
管理会社による第三者管理については、こちらのブログを参照ください。
マンション管理会社による第三者管理方式の現状
マンションの管理計画認定に関する事務ガイドラインについて、気になったこと
17項目、概ね認定するに必要と思われる内容であります。
(4)長期修繕計画の作成及び見直し等の⑤長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
(5)その他の①管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
については、気になりました。
2011年の修繕積立金ガイドラインの平均値218円/m2は、2021年のガイドラインの5,000m2未満の235円/m2の下限値を下回っています。
これには驚きました。
これまでは、平均値だと考えていた金額が、約1.5倍の335円になり、下限値を下回ってショックを受けているマンションもあるかと思います。国交省が10年間放置していて、突然の平均値の値上げと、計画認定のためには、下限値以上と言い出したのには呆れました。
下限値を下回っているマンションは、専門家からの修繕積立金の平均額が著しく低額でない特段の理由がある旨の、以下のような理由書をもらうことが、認定をクリアする条件になるそうです。
マンションの構造によっては、修繕積立金235円/m2で、長期修繕計画が黒字になるマンションはたくさんあると考えますが、理由書があれば、下限値以下でも認定がとれるということで、少しは安心としました。
もう一つ、組合員名簿、居住者名簿が1年に1回、内容確認されていることについては、そもそも、マンションの長期修繕に影響がある内容なのか疑問です。
個人情報を目的なく集めることは個人情報保護法で禁止されています。ガイドラインのP54には、災害等の緊急時に迅速な対応を行うためと唐突に書かれており、意味がわからないところです。
災害時の立ち入りが建物の修繕に必要になることはわかりますが、居住者の個人情報がなくても規約があれば可能です。なぜ、個人情報の名簿を作成する必要があるのかがわかりません。
仮に、個人情報の提供を目的がはっきりしないことから拒否された場合は、名簿は不完全になりますが、それでも1年に1回組合員名簿、居住者名簿を確認していることで認定が受けられるのでしょうか?
標準管理規約でも求められていない「1年に1回組合員名簿、居住者名簿を確認」という基準を、管理計画認定基準に入れたことは違和感を感じました。
管理計画認定を、積極的にとるべきかということですが、労せずして取れるのであれば、取っておいて損はないと考えています。
早くても2022年4月からですが、自治体によっては準備も出来ていないので慌てる必要はないでしょう。
管理規約の改定や、機械式駐車場収入を管理費会計に入れている管理組合は、管理計画認定をきっかけに見直しをすると良いでしょう。
まとめ
- 国交省は、マンション管理適正化法、建替円滑化法を改正して、2022年4月から、自治体による管理計画認定と、指導・助言・勧告が始まります。
- マンションの長寿化を促す制度ですが、人口減少が急速にすすむ社会に向けて、新築マンションの規制を始めないと、空室問題は避けられないです。
- 既存マンションはきちんと修繕して、建物・設備を維持していくことは重要であることには変わりなく、最低限、自治体から今回の指導・助言・勧告や、管理計画認定制度にて、マンションの長寿化はすすむでしょう。
以上
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