マンションは、共同住宅で区分所有者(各戸オーナー)のみなさんの財産です。限られた時間の中で、ボランティアの範囲で活動されている管理組合が最小限の努力で、大規模修繕工事を成功させるためには、設計書(工事仕様書、設計明細書)がとても重要です。

管理会社に設計を発注して大規模修繕工事をリーズナブルに進める方法

設計書(工事仕様書、設計明細書)について解説しています。

大規模修繕工事、管理組合が工事会社に直接発注すると何が不安ですか?

工事会社の業者選定条件について解説しています。

設計書(工事仕様書、設計明細書)があれば、マンション管理組合が直接、大規模修繕工事の会社に見積もりを依頼出来ます。最低2社、出来れば5-6社に声をかければ、競争の原理が働き、適正価格での提案を得ることが出来て、大規模修繕工事費を20%下げることも可能です。

管理会社1社依存で進めると20%くらい多く支払う可能性もあります。2000万円の工事なら400万円、4000万円の工事なら、800万円の差が出てもおかしくありません。

戸建てに住んでいる方が自宅を修繕するときは、よほど信頼関係がある業者ではない限り、1社にだけお願いすることはありません。ネットで調べて電話やメールで問い合わせて良い業者、良い提案を見つけます。マンション管理も全く同じで、大規模修繕工事を管理会社にすべてお任せという選択は、資産を減らす可能性が高い選択です。

今回は、大規模修繕工事を適正価格で実施するために必須といえる設計書(工事仕様書、設計明細項目)の作り方、チェックポイントについて解説します。

マンションの大規模修繕工事のタイミングで、理事、理事長が回ってきてしまった方、ちょっと目をそむけたくなっていませんか?このブログを読んで頂き、大規模修繕工事の進め方のヒントを見つけてください。

管理会社におかませするのではなく上手に付き合って、大規模修繕工事を最小限の努力ですすめる方法について、以下のブログをご覧になってください。設計書(工事仕様書、設計明細項目)が何故重要かよくわかると思います。

マンション管理会社とうまくつき合い大規模修繕工事を適正価格で実施する

今回のブログは、以下のような流れで説明したいと思います。

大規模修繕工事の実施タイミング

国交省の「長期修繕計画作成ガイドライン、2021年9月改訂(P51)」 によれば、マンションの大規模修繕工事は12年から15年に1回のペースで実施するされています。

図1 マンション大規模修繕工事のタイミング

実施のタイミングを決めるのはとても難しいのですが、大規模修繕工事から10年くらいが経過すると管理会社は建物劣化診断調査の実施をすすめてきます。

または、階段や廊下の床や壁の劣化が目立つようになり、マンション専有部で、雨漏りが発生するなどの場合があります。1か所問題が起こると別の個所でもトラブルが発生する可能性がありますので、大規模修繕工事を早期に実施しようという機運は高まります。

もし雨漏り等がなければ、10年を目安に建物劣化診断を実施して、12~15年くらいまでに実施と考えておきましょう。

大規模修繕工事の流れと設計書(工事仕様書、設計明細項目)の作成について

図2 マンション大規模修繕工事の流れと設計書(工事仕様書、設計明細項目)作成

今回のブログでは、前段の建物劣化診断、住民アンケート結果から工事範囲を決めて、設計書(工事仕様書・設計明細項目)をつくるための情報を整理します。

マンションの大規模修繕工事の流れがわからない方については、下記のブログをご覧になってから、このブログをご覧になるとわかりやすいいと思います。

マンションの大規模修繕工事の進め方の設計監理方式と、責任施行方式の二つの流れを解説しています。中小マンションでは、両者を組み合わせた管理会社設計・工事会社責任施行方式がおすすめです。

中小マンションの大規模修繕工事、設計監理方式を採用すべきでない理由

50世帯程度の中小マンションであれば、大規模修繕工事の実施年の通常総会の1年半から2年前に検討開始で十分間に合います。

設計書作成までの流れ

図3 設計書(工事仕様書、設計明細項目)作成の流れ

図2.マンション大規模修繕工事、設計書(工事仕様書、設計明細項目)

設計書作成までを詳しくは解説します。

大規模修繕工事の実施年の前々年のマンション管理組合総会で、前年に必要な予算を確保します。以下の4つを準備します。

  • 建物劣化診断調査(管理会社へ依頼、通常有償)
  • 住民アンケート作成、配布、集計(管理会社へ依頼、通常無償)
  • 設計書の作成(工事仕様書、設計明細項目)(管理会社へ依頼、通常有償) 
  • 工事会社選定条件(管理組合でつくるべきもの)

建物劣化診断調査、設計書の作成(工事仕様書、設計明細項目)の協力を、大規模修繕工事の前々年の総会で、マンション管理会社に相談して、作業費の見積りを出してもらいましょう。国交省のマンション標準管理委託契約書によると、「 本マンション(専有部分を除く。以下同じ。)の維持又は、修繕に関する企画又は実施の調整」が含まれておりますが、劣化診断調査や設計書作成は、含まれていません。

有償での依頼になります。管理会社は建物の実情を把握しているので適切な提案ができます。

管理会社が、工事部門を持っている会社の場合は、建物劣化診断、設計書の作成を有償で見積もってほしいと伝えましょう。

管理会社が工事部門を持っていない場合は、付き合いのある設計コンサルタントを紹介してもらえるはずです。この場合は、建物劣化診断、設計書の作成、工事会社選定補助、工事監理までがセットで提案されるかもしれません。

設計書のうち設計明細についてはエクセル、工事仕様書はWordでの提供を依頼してください。PDFですと、見積もり依頼する工事会社が作業しなおさないといけなくなってしまいます。

建物劣化診断、設計書作成、業者選定協力、工事監理の見積金額の相場は、中小マンションの大規模修繕工事、設計監理方式を採用すべきでない理由にて国交省のアンケートをもとに、時給7,000円で計算した金額で計算してグラフにしていますので参考にしてください。

工事規模4-5000万円くらいであれば、建物劣化診断が、40万円程度、設計書作成が60万円程度、業者選定協力が20-40万円程度、工事監理は80-100万円程度、200万円~250万円と計算されます。

総会では、建物劣化診断・設計を管理会社(または設計コンサルタント)に依頼する意味について、透明性をあげて適正価格で大規模修繕工事を実施するために必要な予算である事、競争入札にすることで、大規模修繕工事の価格をトータルで下がるために必要である事の2点をきちんと説明することが大事です。

建物劣化診断調査

建物劣化診断調査は、工事範囲をするために必要なものです。管理会社も、設計コンサルタントも設計のために建物劣化診断調査が必要と言います。また、他社が実施した劣化診断調査結果で設計を依頼すると嫌がられ、設計する会社が実施するべきものと言う言い方をしますのでセットでお願いするべきものです。

詳細は省きますが、コンクリート躯体の劣化、コンクリートの中性化、鉄部塗装の劣化、外壁塗膜の付着状態、シーリング材の劣化状態、外壁タイルの劣化、屋上・バルコニーの劣化状態などの項目別に、ABCや5段階評価でのレポートされます。

前回の大規模修繕工事から10年経過して、その間で修繕がされていないとそれなりに劣化の報告があります。この劣化診断内容を見て、「大規模修繕工事を2年延期しましょう」という判断をしてくれる管理会社は本当に管理組合のことを親身に考えてくれる良い会社です。

建物劣化診断の内容は、発注した以上、中身をしっかり説明してもらいましょう。そして大規模修繕工事のタイミングで、工事範囲に含めなくても良い項目があるかを、確認しましょう。状態が良いと先送りできるものもあるかもしれません。

屋上防水で屋上の状態が良ければ、トップコートだけにして、保証期間を5年にして様子を見るなどが考えられます。そのような提案をしてくれる管理会社は良い管理会社です。

住民アンケートの実施とドア・サッシ・窓

併せて、住民アンケートを行います。住民アンケートは、区分所有者である組合員(各戸オーナー)に実施するのですが、賃貸に出している場合は、住んでいる人に回答してもらえると本当の声が集められます。

管理組合に責務は、敷地、建物、設備の共有部の修繕維持です。アンケート項目としては、専有部・専用使用となっている共有部と共用部の接点となっている共有部分についてです。建物の躯体や外装は共有部分で浸水すれば雨漏りになります。玄関ドア(鍵穴と内側を除く)や、網戸・サッシ・窓とその枠も共有部です。

通常は無償で管理会社が協力してくれるはずで、案をつくってもらって、理事会や大規模修繕委員会で内容を確認して、配布、回収、集計をお願いしましょう。

A)専有部に関係する共有部について

  • ベランダ・バルコニー、出窓等の雨漏りの有無とその場所
  • ベランダ・バルコニーの塗装の劣化、ひびの有無
  • 玄関ドア、掃き出サッシ、窓、網戸等のガタツキ・不具合の有無

B)共有部について

  • 廊下、階段、手すり等での劣化が気になるところ
  • 集会室、エントランス、敷地で劣化、破損が気になるところ

築年数が20年を超えた2回目以降の大規模修繕工事のマンションでは、サッシ・窓の戸車調整・交換が必要な部屋があるはずです。足場を組んで、バルコニーへの出入りもしやすくなるタイミングである大規模修繕工事の時期にやるべき工事内容になります。

標準管理規約第21条の1項では、ドア・サッシ・窓の劣化は通常の使用に伴う劣化は、区分所有者の負担とされています。希望する区分所有者は個人負担ですすめるのが正しいです。面倒ですが、修繕委員会、理事会が希望者を取りまとめて、地場のサッシ屋さんに依頼するのが最も安くできる方法です。

多くの専有部で、サッシに問題があり一斉交換にする場合は、断熱性能の高い、大型サッシ一枚あたり20万円以上しますが、カバー工法などで実施することも考えられますがかなり高額な工事になります。サッシは4回目か5回目の長期修繕計画で予算をとっておこなうべき工事だと認識しましょう。

なお、ドアの交換は特殊の事情がない限りは不要です。防犯上重要ですから簡単に壊れてしまうようなものではありません。

標準管理規約に基づいて、サッシ・玄関扉の費用負担がどうあるべきか、どうすすめると効率的に出来るのか?など、まとめています。管理組合員に平等で揉めない進め方がわかります。是非こちらを参考にしてください。

標準管理規約に基づいて、サッシ・玄関扉というその費用負担がどうあるべきか、どうすすめると効率的に出来るのか?など、まとめています。管理組合員に平等で揉めない進め方がわかります!

大規模修繕工事(サッシ、玄関扉)

大規模修繕工事住民アンケート案

大規模修繕工事の際の管理組合に責務は、敷地、建物、設備の共有部の修繕維持です。専有部・専用使用となっている共有部と共用部の接点となっている共有部分についてがメインです。建物の躯体や外装は共有部分で浸水すれば雨漏り、玄関ドア(鍵穴と内側を除く)や、網戸・サッシ・窓についてアンケートしています。共用部についても廊下のすべり、手すりの引っ掛かりなども項目に入れいています。お住まいの状況に応じてカスタマイズしてご使用下さい。
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工事範囲の決定

建物劣化診断調査と、住民アンケート結果に加えて、マンション特有の事情で大規模修繕工事のタイミングで実施すべき項目はあります。国交省のマンション標準管理規約の別表2に共用部分の機器としてあげられている下記の項目などを参考にしながら、管理会社にも立ち会ってもらいながら、理事会や大規模修繕委員会で地下機械室から屋上まで一通り歩いて点検して、共有部分の修理すべき場所を確認して回ると良いでしょう。

  1. エントランスホール、廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、共用トイレ、屋上、 屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室、パイプスペース、メーターボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」
  2. エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」
  3. 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及びそれらの附属物

通常、エレベータ、給排水設備、消防設備機器などは、管理会社の管理委託の範囲に含まれており、長期修繕計画にも含まれているはずです。足場を組んで工事する大規模修繕工事と一緒に実施する理由がない設備は、大規模修繕工事の範囲に含める必要はありません。

工事範囲が広げすぎると予算以内に収まらなくなるリスクが高まります。足場があるタイミングで実施すべき工事の例をあげます。

  • 給水方式を変更して使わなくなった残地してある高置水槽撤去
  • アナログテレビ時代のアンテナ撤去
  • 雨水配管の支持金具交換

修繕積立金に余裕があれば、以下のようなグレードアップ工事について検討してもよいでしょう。

  • 廊下や階段の床が滑りやすければ、長尺シートを貼る。
  • 郵便ポスト交換(エントランスが広い場合は、投入と取り出しを分ける)
  • エントランス階段をスロープにする。

見積もり項目に含めるべきかどうか迷うときは、取り合えず設計範囲に含めて見積り金額をみて、大規模修繕計画の積立金の残額と相談しながら決めれば良いでしょう。

これらの要望を、箇条書きにして管理会社に渡して、設計書、工事仕様書Word・設計明細項目Excelで作成してもらいましょう。

続いて、これらの情報をもとに、設計書作成に入りますが長くなりましたので、その1はこの辺りで締めようと思います。

設計書(工事仕様書、設計項目明細)については、その2で説明しています。

マンション大規模修繕工事、設計書作成とチェックポイント、その2

設計書 (工事仕様書、設計項目明細) と併せて、工事会社設定条件を準備します。詳しくは以下のブログをご覧ください。

工事会社選定条件を作ることて、良い工事会社から見積もりをとることが出来ます。


中小マンションの大規模修繕工事の業者選定条件について

まとめ

  • 大規模修繕工事の流れと設計書(工事仕様書、設計明細項目)の作成までの手順を説明しました。中小マンションであれば、大規模修繕工事の前々年の総会からの準備で十分間に合います。
  • 前々年の通常総会で、建物劣化診断、設計書作成、業者選定補助の見積もりを予算化して、大規模修繕工事の前年に、建物劣化診断と住民アンケートを実施して大規模修繕工事範囲を決めます。
  • 建物劣化診断、設計書作成、業者選定補助の見積もりは、建物の実情を把握している管理会社に依頼するのが良いです。
  • 工事範囲は、建物劣化診断、住民アンケート、理事や大規模修繕委員会が管理会社の協力を得て、地下から屋上まで歩いてよく見て、足場を組む大規模修繕工事のタイミングで実施すべき工事内容をピックアップして、その他の工事範囲を決めていきます。
  • サッシ・窓・ドアなど、通常の仕様に伴う工事は、希望する区分所有者の負担で管理組合の予算を使わずに実施しましょう。
  • 修繕積立金に余裕があれば、グレードアップ工事を加えても良いでしょう。項目について迷う項目は、入れておいて大規模修繕工事の見積もり後に金額をみて判断します。

以上

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