中銀カプセルタワーの敷地売却について

※)中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトから情報提供いただきまして、記事を大幅に書き換えています。

築50年を迎えた分譲マンションは、国交省の資料(築後30,40,50年超の分譲マンション戸数)によれば、2020年では、11.5万戸であったのに対して、2040年には、213万世帯になります。2020年4月現在で、建替実施が254棟、敷地売却制度による売却が10棟で、今後は人口減少に伴い、敷地売却が増えていくという予想のもと、マンションの終わりのシナリオをまとめた「マンションの終わりを想像する」というブログをまとめました。

5月17日に、タイムリーにも中銀カプセルタワーが敷地売却決議されたとの報道がありました。歴史的価値がある建物が解体されることは大変残念ですが、区分所有者の4/5以上の合意がされたことは素晴らしいと思いました。保全活動を推進していた理事が中心になり区分所有者の意見をまとめた模様です。中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの情報によれば、戸数(カプセル数)は140戸、商用部の区分所有者が2ですから、総議決権数は面積比率で175の4/5以上で、113以上の組合員数と、総議決権数140以上の合意を得たわけで大変な苦労されたことでしょう。歴史的建造物で、旧借地借家法の60年借地で、借地権者の区分所有者という特殊な事情での合意は快挙と言えるでしょう。

売却価格は不明ですが、周辺の事例から想定して、取得価格、土地賃料、固定資産税・都市計画税、管理費・修繕積立金などを試算して背景を考察します。

中銀カプセルタワーとは

中銀(なかぎん)カプセルタワー、建築家の故・黒川紀章が設計したメタボリズム(新陳代謝)というコンセプトのもとで、古くなったらカプセルごと交換するというコンセプトのもと1972年に建築された1ルームマンションです。こちらの記事「分譲マンション、最初で最後のモダニズム建築 中銀カプセルタワービル」によると、全室壁芯10m2、キッチンなし、洗濯機置場想定外で、当時はコンシェルジュ・サービスが導入されたマンションでした。

同記事によれば、旧借地借家法の60年借地権、専有面積は全室10m2、1972年の売出価格は、380万円~459万円で売り出された模様で、バブル期1990年、4,052万円/戸まで上昇、ここ10年も人気で坪単価あたり108-290万円/坪、1戸当たり3坪として324-870万円程度で取引されていたようです。

2007年には、建替決議されて、ゼネコンも決まっていたそうですが、リーマンショックで会社が倒産してしまって、白紙になったそうです。2011年の東日本大震災では、全く破損することもなく、保存活動の機運が高まったようです。

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトなるものがあり、2021年5月、6月も見学ツアーも用意されているようです。

しかし竣工から50年近くとなり、大規模修繕工事は一度も実施されておらず、費用の問題で当初のコンセプトの通りカプセルが交換されることもなく、建物、設備ともに保全には課題があったようで、30部屋程度が稼働で、デベロッパーに売却、その後の土地利用もデベロッパーにゆだねる選択をしたと記事にはあります。

設計した黒川氏が、考えていたメタボリズムの思想のようにカプセル単位での交換が実際には行われなかったことは残念な限りです。

中古価格、固定資産税、土地賃料、管理費等

図1全国地価マップ、中銀カプセルタワーは緑斜線部分

中銀カプセルタワーは、銀座8丁目という立地で、Googleマップで簡易的に測定したところ、約430m2でしたが、中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクトより441.89m2というご連絡いただきました。

ご連絡頂き大変感謝しています。ありがとうございました。

【中銀カプセル保存再生プロジェクトからの情報】

  • マンション建て替え円滑化法 除却認定後に、面積割総議決権数及び、区分所有者数の4/5以上の賛成による敷地売却決議 
  • カプセル140(住居部分)、区分所有者数は1階店舗、2階事務所の合計で142、1,2階に面積比率で35議決権が設定、総議決権数は、175
  • 敷地面積は441.89m2(以下442m2で計算します)と連絡いただきました。
  • 管理費、修繕積立、借地料で毎月17,300円。借地料がこのうち2,000円。
  • 固定資産税と都市計画税は年間で14,663円

固定資産税評価額は、全国地価マップによれば、3方向の道路で、927千円/m2、1,530千円/m2、1,020千円/m2ですので、平均して、1,159千円/m2とします。この計算ですと、土地代だけで、以下の固定資産税となります。

全国地価マップで計算される固定資産税の土地分(再生プロジェクトの情報によると土地分・家屋分の合計で14,663m2/戸)

固定資産税 1,159千円/m2 x 3.09m2/戸 /6 x  1.4/100 = 8,356円

都市計画税 1,159千円/m2 x 3.09m2/戸 /3 x  0.3/100 = 3,581円

合計 11,937円/年

建物分の固定資産税は不明ですが、中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクトからの情報ですと、固定資産税と都市計画税の合計で14,663円/年ですから、11,937円/年を差し引いて、1カプセルあたりの建物(家屋)分の固定資産税は、2,726円/年と計算されます。東京都の税率で1.4%、0.3%で割り戻すと、160,352円/戸という計算になります。建物価値は、低い評価になっていたようです。

土地賃借料は、2,000円/月・戸、24,000円/年・戸とというのが、中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクトからの情報で、1972年に60年借地契約をしたので、このような低い設定となっているのでしょう。

管理費・修繕積立金は、15,300円/月・戸、183,600円/年・戸だそうです。

固定資産税・都市計画税、土地賃借料、管理費・修繕積立金の合計は、以下となります。

14,663円/年 + 24,000円/年 + 183,600円/年 = 222,263円/年

稼働していた部屋は約30ということですので、ほとんど使用せず、セカンドハウスとして、一人で読書をする時間などに使うだけでも、中銀カプセルタワーが好きで欲しかったオーナーも多かったと思われます。

しかし固定資産税・都市計画税、土地賃借料、修繕積立金だけを払い続けつつも、いづれ建替えか敷地売却で戻ってくるという計算をしていた区分所有者もいたのではないでしょうか。

10年保有していたら売却益は出たか?

中古取得金額の平均を、324-870万円程度の取引価格の中間の5,970千円とします。不動産取得税や媒介手数料などは無視しています。金利も考慮していません。10年間保有して、固定資産税・都市計画税、土地賃借料、管理費・修繕積立金は、2,222千円。取得費用と10年間で支払った費用は、8,192千円/戸となります。

敷地面積441.89m2の1戸あたりの保有面積は、1,2階の商業施設部を含めて、総議決件数が面積比率となっているので、1/175分が1戸分の敷地面積になりますので、

441.89m2 / 175 = 2.52m2/戸

となります。

8,192千円/戸 / 2.52m2/戸 = 3,250円/m2

以上で売却できると、1戸を10年保有した場合でペイすることが出来ます。

なお修繕積立金残金は解体費にあてたとして、相殺されたと仮定します。

土地の実勢価格は、国土交通省 不動産・建設経済局の土地総合調査システムによれば、2019年から2020年で、中央区で売買された取引額がわかります。

図2 国土交通省 不動産・建設経済局の土地総合調査システム

中銀カプセルタワーは、銀座8丁目、新橋徒歩10分あたりの立地と近い実績はありませんが、2019年から2020年まで新橋駅から徒歩3分の同じく用途地域は、商業地域、容積率700%、建蔽率80%の売却価格の平米単価は、13,000千円~18,000千円/m2です。同じ中央区でも築地の商業地域になると、1,200千円~1,800千円と桁が一つ小さくなります。

銀座8丁目は、この中間に位置していますが、商業地域、容積率700%、建蔽率80%と同じ条件で、敷地も430m2と十分の大きさであることを考えると、3,250円/m2以上で売却できた可能性は十分にあると言えるでしょう。

都心から離れていくと東京都でも地価は40、30、20万円/m2と落ちていきます。敷地売却価格は、銀座のようには行きません。都心から離れれば敷地売却で売却益を期待する区分所有者は少ないと思われますが、ローンが残っている区分所有者からは、売却益でカバーできないと合意を得られないでしょう。区分所有者のローンが終わっており、分譲が賃貸住宅になっていること、売却益が少しでも残ることなどが、合意のための条件になってくるように思えます。

2040年に向けて、築50年のマンションが213万戸になる現実、既に11万5千戸ある築50年超えマンションの一部は、敷地売却に向かうはずで、どうすれば区分所有者が合意形成できるかが、気になっている次第です。

まとめ

  • 歴史的建造物であり借地権、商用部分ありという難しい条件で、140戸の区分所有マンション、商用部の区分所有者2で、築49年、総議決権数は175の4/5以上の140以上の合意を得て敷地売却決議に至ったことことは、素晴らしいの一言です。
  • 銀座8丁目という地価が高い場所で、約441.89m2というまとまった土地であったため売却しやすく、価格も高く設定できたことも合意にいたった背景としてあるでしょう。

以上