分譲マンション管理会社による管理委託料値上げや、契約辞退などが小規模・築古マンションでは珍しくなくなりました。
最低賃金の上昇、東京都で言えば2012年の850円から2021年1,041円まで22%上昇していることや、社会保険料の会社負担割合の増額などが背景にあり管理委託料据え置きのままでは、管理会社の人権集約型のビジネスでは利益が圧迫されて、回らなくなってきていることが背景にあります。
とくに、小規模築古マンションでは、管理委託料収入が少ないうえに修繕カ所は多く、手がかかる。十分に対価を払ってくれるかと言うとそうはいかずにメリットが少ないと管理会社は見ています。
マンション管理組合目線は、管理組合利益最大の付き合い方を解説していますが、相手(管理会社)あってのことですから、どうやって逃げられないように気持ちよく働いてもらえるか考えないといけません。マンションの資産価値を落とさない方法について、「見積もり依頼」の観点で考えます。
今回のブログでは、見積もり依頼について解説したいと思います。
目次
管理会社の動きが悪いと感じるのは何故?
管理組合の方からのヒアリングで管理組合からの要望になかなか対応してくれない、遅いという不満があります。
何故なのか?管理会社には工数がかかるわりにはメリットが少なければ、積極的な提案はしません。さらに、そのような依頼をフロントや営繕担当(工事担当)は管理組合から何件もいっぺんに依頼されており裁けないと言うのが実態です。
そもそも管理会社の利益はどれくらいでしょうか?
表1 マンション規模別、管理会社粗利(雑な仮定ですが)
マンション規模 | 管理費 | 世帯数 | 月額管理費収入 | 月額管理委託料 (管理委託料の70%想定) | 月額管理会社粗利 (管理委託料の30%想定) |
大規模300世帯以上 (管理費2万円想定) | 20,000 | 300 | 6,000,000 | 4,200,000 | 1,260,000 |
中規模100~300世帯以上 (管理費1万5千円想定) | 15,000 | 100 | 1,500,000 | 1,050,000 | 315,000 |
中小規模100-50世帯 (管理費1万2千円想定) | 12,000 | 50 | 600,000 | 420,000 | 126,000 |
小規模20-50世帯 (管理費1万2千円想定) | 12,000 | 20 | 240,000 | 168,000 | 50,400 |
大規模マンションは、300世帯以上、中規模100-300世帯、中小規模100-50世帯、小規模30-50世帯と分類して、月額の管理費は大20,000円、中15,000円、中小、小12,000円と設定しました。シンプルにするため駐車場会計は別として収入には考慮していません。
管理費のうち、管理会社に支払う管理委託料は70%、そのうち管理会社の粗利は30%とかなり乱暴な仮定ですが、目安にはなります。
大規模マンション管理組合は上客で、小規模マンション管理組合はあまり収益をもたらさないお客となります。ですので、大規模マンションはリプレイスされないように対応は早く、小規模築古に対しては、それなりのお付き合いとなることは避けられません。
20世帯の小規模マンションは、月額5万円程度と計算されます。年間でも60万円。10件掛け持ちし600万円、本人の人件費、支店のコスト、経理コストなどをカバー出来ません。実際多いところは、フロント一人で15件かかえている担当もいます。
独立系の中小管理会社は、平均、50世帯以下、築30年を15件担当などよく耳にします。
おのずと儲からない小さな管理組合への対応には、フロントがどんなに熱心でも限界があるのです。
管理組合理事さんは、フロントの対応が悪い時に管理会社に非があればもちろん注意して良いのですが、見積もりの対応が遅いとか、高く感じるについて、フロントの心を折るような発言をしたらかえって、マイナス効果になります。
まずは標準管理委託契約書の管理組合が管理会社に委託している範囲を正確に理解して、考えて見ましょう。
国交省の標準管理委託契約書の管理会社に依頼できる範囲
図1のうち、管理人業務、清掃業務、建物設備業務などは、別表2~5への仕様書があり詳細の内容が記載されています。業務範囲で揉めたら管理会社と管理組合で話し合って、次年度の契約で書き換えていけば、基本的にはもめません。
管理会社との間でもめるのは、別表1の事務管理業務と、第8条の緊急時の対応、第10条の管理費等の滞納督促、第11条の有害行為への中止要求などです。このブログでは別表1の基幹事務について考えて見ます。
別表1は、以下の構成となっています。事務管理業務は以下の構成になっています。
表1 標準管理委託契約書の事務管理業務について
1 基幹事務 | (1)管理組合の会計の収入および支出の調定 | 省略 |
(2)出納 | 省略 | |
(3)本マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整 | ・長期修繕計画の見直し(但し、別個の契約として) ・修繕工事の内容、実施予定時期、工事の概算費用等の助言 | |
2 基幹事務以外 | (1)理事会支援業務 | ①組合員等の名簿整備 |
②理事会の開催、運営支援 | ||
③管理組合の契約事務処理 | ||
(2)総会支援業務 | 省略 | |
(3)その他 | ①各種点検、検査等に基づく助言等 | |
②各種点検等の報告、届け出の補助 | ||
③図書等の保管 |
事務管理業務の基幹事務の(3)本マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整はグレーです。長期修繕計画の作成は、別個の契約とするとあり、標準管理委託契約書をそのまま使っている場合は長期修繕計画の作成は別契約であることを覚えておきましょう。発注しないと作成してもらえません。ご自身のマンションの管理委託契約書の記述も改めて確認することをお勧めします。
(1)理事会支援業務がありますが、②には理事会の開催日程の調整や議事に係る助言、資料の作成、議事録の作成が含まれますが、「議事に係る助言や資料の作成」の範囲がグレーです。議案準備と議事録はやってもらえますが、資料の作成の部分は対応に差が出ます。
(3)その他の業務の①各種点検、検査等に基づく助言等には、「改善等の必要がある事項については、具体的な方策を書面で行う」としており、建物や設備の故障や修理や、その予防のための提案業務は、管理会社の業務範囲です。
どのようにどこまで依頼して良いか、私の考えをまとめたいと思います。
標準管理委託契約書に基く管理会社との上手な付き合い方
管理会社への「議事に係る助言や資料の作成」と、「改善等の必要がある事項については、具体的な方策を書面で行う」については、管理委託契約書の範囲で、提案や見積もりを求めても良いことになります。
しかし、無償で提案や見積もりが無制限に管理委託契約書に含まられるわけではありません。依頼すれば管理会社の検討の工数や、工事会社への見積依頼のための工数が発生しますので見積には利益が載ることになります。通常15-20%程度は利益が載っています。
このあたりがマンションの規模によってそして管理会社との良い関係を維持できているかで管理会社がどれだけ早く丁寧に対応してくれるか差がつくところです。
「高いので安くしてください」という価格交渉ですが、交渉して良いですが管理会社の利益を削ってくださいという依頼なのであまり期待は出来ないです。マンション規模に応じて、金額で線を引いて高いなと思ったら、管理組合で見積もりをとることをお勧めします。
管理費年間予算規模が、300万円程度であれば小修繕予算は50万円くらいです。50万円超える工事は見積もりをとって安くしたいと思うので管理組合で地場の工務店に直接見積もりをとって発注すれば良いです。同じく管理費年間予算規模が、700万円なら、例えば100万円を超えたら管理組合で直接見積もりを取るなどルールを決めて動けばよいでしょう。
地場の工務店の見積り価格で交渉すれば、管理会社は価格を下げてくれる場合もありますが、見積もりをしてくれた地場の工務店にも失礼なのでお勧めしません。
管理会社に小さな工事で少しは稼いでもらって良い関係を作っておくことも大事です。一方、地場の工務店に発注してパイプを作っておくと、地場のネットワークでサッシ屋さん、配管などの漏水対応に強い設備屋さんなど紹介してくれるきっかけになりますので、管理組合として地場工務店とパイプをもっておくことも重要です。
また、長期修繕計画にある大規模修繕工事や、給水設備工事など計画修繕工事で数百万円~1千万円を超える工事については、管理会社に利益を載せられたら良いことはありませんので、管理組合で修繕委員会を立ち上げるなどして体制をつくって動きましょう。
具体的には、有償・無償で管理会社に仕様書作成を依頼するのが良いです。有償にしたほうが管理組合として工事会社に見積もりをとる際に、管理会社に気兼ねなく出来ます。仕様書で管理組合に直接、工事会社から見積もりをとると適正価格がわかります。管理会社が工事の元請けをする会社の場合は、管理会社も含めて最もリーズナブルで、信頼ができる会社に発注すれば良いでしょう。
詳しくはこちらのブログを参考にしてください。
マンション管理会社とうまくつき合い大規模修繕工事を適正価格で実施する
1回の計画修繕工事で数百万円ずつ修繕積立金を使っていくと、節約をしてきたマンションと10年、20年経過後に大きく差をつけられてしまいます。
2040年には築50年超マンションでも選ばれるマンションへ
人口減少時代、マンションに空き部屋が出来ると管理費・修繕積立金の滞納リスクが高まります。
2040年には、築50年越えのマンションは213万戸を超えます。どんなマンションが中古や賃貸で選ばれるでしょうか?立地が最重要ですが、同じエリア、同じ規模の中では適正な管理・修繕がされていることはもちろん、管理費・修繕積立金の設定がリーズナブルなマンションが選ばれます。
大規模修繕工事など大きな工事は、管理会社任せにせずにしっかり管理組合で動いて、コストを抑えて質の高い工事を実施することで、建物設備をしっかり維持して、築50年でも中古市場で選ばれるマンションを目指しましょう。
管理会社からすると、売上が大きい大規模修繕工事で管理会社を使ってくれないと嘆くかもしれませんが、大きな工事に関しては譲っては行けません。その意味で小修繕は値切らずに管理会社に依頼することで良い関係を維持することも重要です。
小修繕と大きな工事で管理会社との適度な距離を保ち、良い関係を維持してマンションの資産価値を維持しましょう。
まとめ
- 小規模・築古マンションは管理会社から管理委託契約更新を拒否される、値上げを要求されるケースが増えています。
- マンション管理組合は管理会社に対して管理委託契約書で依頼した範囲でマンション管理修繕業務を依頼することが出来ますが、理事会支援業務や、マンションの修繕が必要な場合の提案などは、どこまで対応してもらえるかはグレーです。
- 例えば小修繕工事を管理会社に依頼して見積もりが高いと感じる場合は、その予算規模に応じて、50万円、100万円などある規模を超える工事では、管理会社を値切るのではなく、管理組合が地場の工務店に見積もりをとり発注すれば良いです。
- 大規模修繕工事など大きな工事では、管理会社にお任せにすると高くつくので、管理会社に有償で仕様書を作ってもらって管理組合が直接見積もりをとって最もリーズナブルで信頼できる会社に発注すると良いでしょう。
- 小修繕と大きな工事で管理会社との適度な距離で使い分けて、良い関係を維持してマンションの資産価値を維持しましょう。
以上
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