築40年越えマンションでは、お一人様区分所有者がいるマンションは多いでしょう。新築分譲購入者が40代だとすると、80代になっており、子供は独立、パートナーに先立たれてというパターンがあるからです。

マンション管理組合目線のお客様にお話を聞いていると、築古マンションではお一人様高齢者の認知症問題は顕在化しています。奇声を発するなど、問題を起こしている例を耳にします。

今後の人口減少により、住宅が余る状況になることを考えると、お一人様問題自体が管理組合の問題になりますし、その後の相続放棄による管理費・修繕積立金の未払い問題も増えることも予想されます。

お一人様の高齢者問題は、マンションに限られた問題ではありません。認知症により意思能力がなくなると、法律行為が出来なくなり、貯金を引き出すことや、施設に入るための契約などが出来なくなります。

そのための国の制度として、成年後見制度がありますが活用事例はさほど多くないようです。

このブログでは、お一人様高齢者の認知症問題対策としての成年後見制度の概要を説明して、今後、普及していくことが期待できる民事信託についての可能性について考えます。

成年後見制度概要と利用状況

成年後見制度は、法務省の定義によれば、認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々に代わって成年後見人が,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだりする制度です。法定後見制度と任意後見制度の二種類があります。2000年4月から始まっています。

法定後見制度

本人の判断能力が不十分になった後に、本人,配偶者,四親等内の親族,検察官,市町村長などが、家庭裁判所に申し立てすることで家庭裁判所が専任する成年後見人が本人を支援する制度。認知症での利用が64%、法定後見人は、家裁が指定するが親族以外が8割程度は弁護士、司法書士などが選ばれます(成年後見関係事件の概況 2020年1-12月 最高裁判所事務総局家庭局)

任意後見制度

本人が判断能力を失う前に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に,任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。

任意後見人が親族に選ばれる場合は、家裁が後見監督人と言って任意後見人を監督する立場で選任されるケースが多いようです。本人が判断能力を失わったら発効されて、逆に判断能力を有したまま、鬼籍に入れば活用されることはありません。

これらの法定後見人に対する報酬は、東京家庭裁判所立川支部の2015年情報によれば月額2万円、管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円です。任意後見制度は、法定後見人が親族になる場合は、法定後見人を監督する後見監督人を家裁が選定するのですが、東京家庭裁判所立川支部の2015年情報によれば管理財産額が5,000万円以下であれば月額1万円程度の費用が本人が亡くなるまでかかります。

財産管理については、本人が施設に入るために不動産を売却する場合など、家裁の許可が必要で限定的です。


図1 成年後見制度利用促進に関する現状(概要) 厚生労働省社会・援護局 地域福祉課成年後見制度利用促進室 

2020年12月末での利用者数は成年後見(成年補助、補佐含めて)約23万人、そのうち任意後見は2,655人と少ないです。

図1の厚労省のデータの通り、認知症者数は、約600万人いるようなので、3.8%という利用率はかなり低いです。実際には、判断能力が落ちて施設に入るというだけであれば、契約をする親族がいて、本人の預金があり与信があれば施設側も細かいことを言わずに、受け入れている実態があります。

利用者が少ない理由の一つには、法定後見人・後見監督人に、本人が亡くなるまで最低でも月額2万円程度・月額1万円程度の報酬の支払いが必要になることや、財産の処分は本人が施設に入るために必要な場合などに限られていて積極的な運用が出来ない事も関係していると考えられます。

任意後見が、2,655人と利用者はさらに少ないですが、本人が将来認知症になることを予測して、あらかじめ委任するということに対して、認知症になることをあらかじめ「想定したくない」という思いがあることが考えられます。支援する妻・子・親族からしても後見制度では、相続など本人の亡くなった後の問題は解決しないため、積極的に動きづらい面もあるのかもしれません。

図2 成年後見制度利用促進に関する現状(概要) 厚生労働省社会・援護局 地域福祉課成年後見制度利用促進室

なお、図2にある通り制度利用の理由は、預貯金等の管理・解約が37.1%、身上保護(福祉サービスの契約や施設入退所の契約手続きなど)が23.7%、介護保険契約12%、不動産の処分10.4%、相続手続8%と続いています。

厚労省は、制度を利用していない場合の本人は、家族や支援者が出来る範囲内で支援しているとあるが、現状はやむを得ず利用していると言っても良いかもしれません。

より柔軟な制度として近年注目されているのが、民事信託(家族信託)です。

民事信託(家族信託)の分譲マンション適用例と管理組合活動について

2007年の信託法によって制定された制度で、2017年くらいから信託銀行のサービスが始まり、ここ5年間くらいで利用例が増えているようです。とはいえ、事例は2~3千件程度です。

この制度は、委任者(本人)、受託者(役務がある)、受益者(メリットがある人、本人も受益者になれるし、本人が亡くなれば受託者が受益者になるなど柔軟に設計可能)によって、任意の信託契約を結ぶことで、財産の管理を、本人が元気なうちから契約で決められる制度です。本人の判断能力が失われることが前提の認知症対策に限ったものではなく、自由な制度です。

遺言書では、自分が亡くなった後の相続人までしか決められませんが、民事信託では、本人が亡くなって、次の相続人が亡くなった後の財産を誰に引き渡すかも決められます。

図4 子供がいない夫婦が甥と民事信託の例

例えば図4のように、お子さんがいない夫婦の想定で、区分マンションを信託財産として、夫婦がなくなった後の処分の面倒を見てくれる甥を受託者として民事信託を結んだ場合を想定しています。

委任者はマンションの区分所有者、受託者は甥、受益者は委任者本人から、本人が亡くなったらその妻、さらに妻がなくなったら甥と引き継いでいくように信託契約としています。受託者は信託契約で決められた範囲で、受益者の面倒を見ることになります。

この図4の例の場合は、子供がいない夫婦で、両親もなくなっている想定です。本人に兄弟がいても、相続の遺留分は発生しないため、相続で揉めにくい例を取り上げていますが、兄弟が存命で、他の甥や姪がいれば相続の問題が解決しているわけではありません。事前に親族が納得していることが前提で、本人が妻にマンションを相続するという遺言書があればさらに良いでしょう。もし、このような民事信託契約がないと、妻にマンションがわたり妻が亡くなるとと、次は妻の親族に相続されることになります。もし図4のように民事信託で、最終的に甥にマンションを渡したいのであれば有効になります。

図4の例では、信託契約締結時に所有権は甥に移動して所有権移転登記と、信託の登記が必要になり登録免許税はかかります。実質的な所有権は、本人にありますので、譲渡所得税、不動産取得税はかかりません。相続は、「実質所得者課税の原則」があるため、本人が亡くなった時(図4の①b→②a)および、妻が亡くなった時 (図4の②b→③) に発生するということは変わりません。相続会議「家族信託で相続税や贈与税はかかる? 節税対策の効果も解説」記事より)

信託契約の内容で、生前に甥が本人と妻の面倒を見る契約になっており、他の相続人にも説明していれば、納得しやすく揉めにくいでしょう。マンションの資産価値が維持されていることが前提にはなりますが、甥も資産を引き継げることが前提になっていれば、夫婦の面倒を見ることについても受け入れやすいでしょう。そして、資産価値を落とさないように、マンション管理組合の活動には多少の興味をもってくれるはずです。なぜなら相続した後、売却するなり、賃貸マンションにするなり、有利な条件で収益化するか、もしかしたら自分が住むかもしれないからです。

信託契約は家庭裁判所の縛りなどもないため、報酬は任意に決めることが出来ます。信託口口座を開設して、受託者が財産を報告することで報酬がもらえるという仕組みになります。無報酬でも引き受けてもらえるならば、無報酬でも契約は成立します。委託者、受託者が契約通りに実行できる納得できるWin-Winの関係になれば、うまくいくでしょう。

しかし、家庭裁判所が関わるわけでもなく、法定後見人や後見監督人もいるわけではないので委任者、受託者、受益者が契約通りに運用されているかはわかりません。

民事信託が普及していくためには、その実効性を担保し、うまく運用出来ない場合の契約を変更するなど第三者の役割も必要で、弁護士・司法書士、NPO、会社組織など第三者の関りが必要になっていくでしょう。

まだ実施例が少なく、始まったばかりの制度で、信託財産が相続の対象になるか否かを争う裁判があったりと運用は安定していない面もあります。

マンション管理会社が管理委託先の分譲マンション向けの差別化をはかるために、このような民事信託を第三者サポートするの専有部サービスを始めるのも良いかもしれません。専有部から信頼が得られやすい立場で、管理委託契約を維持するためにも強みになるでしょう。

区分所有法、標準管理規約と民事信託

総会議決権行使について

マンション管理組合総会の議決権行使について区分所有法、標準管理規約について考えて見ます。

図4の例の場合は、信託契約締結時に所有権は甥に移りますが、実質的な所有権は委任者である本人です。区分所有法39条2項の通り、総会議決権は所有権を持つ甥が行使するところですが、実質的な所有権をもった受益者である本人が甥を代理して議決権行使すると考えるのが普通でしょう。区分所有法には代理人に制限がないのでとくに問題はありません。

マンション標準管理規約(2021年6月改定)では、議決権第46条5項にある通り、代理人が行使する場合は、配偶者又は一親等の親族、その他同居する親族、他の組合員となっています。

図4の例の場合では、本人や妻は同居していないことが想定されて代理行使することが出来ません。本人が代理人になる場合は、管理規約は書き換える必要があります。

管理組合役員について

図4の甥は、信託契約時に所有者になるわけで、マンション標準管理規約(2021年6月改定)の35条の役員には居住の有無は問われていないので、非在住でも役員になることも出来ます。図3の甥は、将来自分が実質的な所有者になるわけで、受託者である甥に役員を引き受けてもらうことも良いかもしれません。

一方、マンション標準管理規約(2021年6月改定)の53条では理事の代理権は規定されていません。図3の例の場合、所有権は甥に移動しているため、実質的所有権を持つ本人は理事になることも出来ません。本人が管理組合の役員になる場合は、管理規約を書き換える必要があります。

全国での民事信託の実例が2-3千件で、そのうち分譲マンションの所有権の移転を伴う例が、いくつあるかは、わかりません。もし、今後このような民事信託の形で、区分マンションに適用される例が増えるのであれば、標準管理規約も書き換えが必要となるでしょう。

管理規約の整備は必要ですが、民事信託は、委任者と受託者がWin-Winになる関係が見いだせれば有効に機能して、所有者が不在になる分譲マンションの空室問題を解決するソリューションになりえます。

まとめ

  • 築古マンションの区分所有者はお一人さま高齢者になり、認知症が発生して問題になっている例があります。また今後は、住宅が余る時代なので相続放棄によって管理費・修繕積立金が入らなくなるリスクも懸念されます。
  • 国の制度として成年後見制度があり23万件の利用がありますが、現在、認知症が約600万人いることを考えると利用率は高くはありません。
  • 築古分譲マンションの資産の継承の一つの形として、民事信託の利用も考えられます。区分マンションの後継者を所有者が存命の間に決まることが出来るので本人も後継者も、組合の活動に参加できる形に規約を改正するのが望ましいです。普及していくのであれば標準管理規約も見直しが必要になります。

以上

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